第10章 12 投稿日:2005/06/23(Thu) 16:28 No.95
それからの行動が、あまり印象に残っていない。 確か、この辺の服はやっぱり若い子向きで、合わないなぁ、なんていいながら何軒かの店をまわっていたように思う。 そして、本屋へも立ち寄った。さすがに司書教諭だけあって、本についての知識が豊富で、放っておいたら何時間でもいそうな雰囲気だった。
気がつけば、5時を回っていた。 「みつ・・・」 本名を知っていても、やはりそう呼んでしまう。 「はい」 「もうそろそろ、帰るわ」 「あ、はい・・・」 「じゃ」 「あの・・・」 「うん?」 「あの・・・楽しかったですか?こんな過ごし方をしてしまって・・・」 「いや、俺は別に・・・そっちはどうだったの?」 「私は!・・・Kさんといられたら・・・」 少しの沈黙の後、健一は美津子を抱きしめた。
まるで、若い子みたいに、見境ないことをしてしまったなあ、と帰りの電車の中、健一は思い返していた。実際に会ったのは2回目だが、ネットで知り合ってからもう数ヶ月が経ち、メッセンジャーで個人的に話をするようになってからも、数週間が過ぎている。 健一は思った。もう、みつは、ネット上での知り合いなんかじゃない・・・。
美津子は、部屋に戻って、荷物を置き、着替えはじめた。家用のTシャツにショートパンツをはき、冷蔵庫からいつものようにチューハイの缶を取り出した。 ベッドの上で、壁にもたれて、ひざを抱えるような姿勢で、チューハイを飲みだした。 ・・・・・・ふーっ・・・・・・・・・ 大きく息をついた。緊張した・・・・・・。 さすがに2回目で、ホテルはないわよねぇ、と思うものの、誘われなかった事に意外な気もしていた。 でも、いきなり抱きしめられた事には驚いた。しかも、道の真ん中で。その時の感触がまだ残っている。 次、会った時。次はきっと・・・。 美津子は、ひざを強く抱えた。あの時、Kがみつを抱きしめた強さで。
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