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感染
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第2章 6 投稿日:2004/11/08(Mon) 22:24 No.12 
健一は、あくびをしながら、市役所に向かって歩いていた。
電車で立つ事はまずない。田舎の市で、下り電車に乗るからだ。田舎の市でよかった、と向かいのホームに来る上り電車のすし詰め状態を見ながら思っていた。
駅から市役所まで、一本道である。他の道をつかう者はまずいない。だから、同じ電車に乗ると、道で同じ人に出会う。その中に、20代前半だろうか、ロングの美しい女性がいる。
今日もいた・・・交差点で信号待ちをしていた。じっと見ていると怪しまれるので、顔を見たら、違う方を見るようにしていた。

信号が青に変わり、二人はすれ違った。

もちろん、挨拶もしない。交差点の通行人として、一人の美女とすれ違った。それだけだ。それだけの事が、健一の心を新鮮にさせた。
別に、知り合いとは思っていない。かといって、その女性のみだらな姿を想像する気もない。ただ、美しい女性を見て、胸のあたりが少し苦しくなる感覚が、まだ自分の中にあることに安堵し、そして嬉しいのだ。
健一は、歩くペースを変えることなく、市役所に向かった。

第2章 7 投稿日:2004/11/11(Thu) 22:04 No.13 
部屋の時計を見ると、5時を回っていた。健一はそれを見て、帰り支度を始めた。荷物をカバンに入れ終わり、ふたをしめた時、カバンに無数の傷が入ってることに気付いた。
だいぶくたびれてきたな、このカバンも・・・。
このカバンを買ったのは、いつだっただろう?就職して何年かたってから買ったやつだ。それでも、もう10年近くはたつな・・・。
そうか、それだけもう働いてきたって事だ。ということは、後何年働けるんだ?最近は、公務員とはいえ、うかうかしてられない。リストラされる可能性も、いや、財政再建団体に転落したら、思ってもみない若さでやめなければならなくなるかも・・・。
まあ、仮に、運良く定年まで勤められたとして、あと25年位か。その後は?凛がもうさすがに結婚して、家を出てるだろう。じゃ、麻子と2人?どんな生活を送るんだろう?
「高梨さん、帰らないんですか?」
ふと、我に帰った健一は、どう返事したかも意識しないまま、席を立った。

第2章 8 投稿日:2004/11/13(Sat) 15:32 No.14 
K:おやすみ〜>おーる
貧乏人:おやすみ>K
みつ:おやすみなさい>K

Kさん、おちたなぁ・・・
美津子は、キーボードから手を離し、缶チューハイに手を伸ばした。ぬるくなったレモン味のそれを、一口飲んだ。
12時に落ちるつもりが、30分もオーバーしてるもんなあ・・・あとは貧乏人さんだけだし、この流れに乗って、雪崩れるとするか・・・。
パソコンの電源を切った美津子は、最後のチューハイを飲み干し、ベッドで横になった。
代わり映えしないなあ、この生活。チャットしてなかったら、何してるかな?読みたい作家の本はなかなか新作でないし。テレビでも見ながら、ぼーっとしてるのかな?友達みたいに、子育てに追われるってこと、ないからなあ。そういや、友達はほとんど結婚しちゃったなぁ。いくら、晩婚化が進んでる、って言ったって、30過ぎても独身って、やっぱり焦るよなあ。

第2章 9 投稿日:2004/11/16(Tue) 22:59 No.15 
うん。やっぱり焦る。
美津子は、ベッドで一人、そんなことを考えていた。
このベッドに一人じゃなかったのは、いつのことだろう?もう思い出せないや・・・。
結婚、あこがれるなあ。Kさんとこみたいにさ、川の字になって・・・。いいよなあ。
私、このまま、一人なんやろか・・・。
夜がさらに深まっていった。

第3章 1 投稿日:2004/11/22(Mon) 23:00 No.16 
かなり寒さが厳しくなってきた。家は大阪だが、市役所は奈良にある。奈良は盆地で、冷え込むと、かなりの寒さになる。
近いのに、結構気温って違うものだな・・・
健一はそう感じていた。

風呂から上がると、麻子も凛も寝ていた。ベッドの方に目をやり、すぐにパソコンの電源を入れた。

ああ、いつもの面々がいてる・・・みつ、とーち、貧乏人、あ、新顔もいる・・・
健一は、クリックして、入室した。

第3章 2 投稿日:2004/11/23(Tue) 22:53 No.17 
K:こんばんは>おーる
貧乏人:こんばんは>K
とーち:よう>K
みつ:こんばんは!>K
姫:こんばんは。はじめまして>Kさん

一通りあいさつが終わり、ログを見て、それまでの会話と、新しくきた人の人となりを調べてみた。
姫、といいながら、実は男、という輩もいるが、どうも女性みたいだ。そして、既婚者で、子どもはいないようだ。
まあ、何はともあれ、チャット仲間が増えるのはいいことだ。健一はそう考えていた。

第3章 3 投稿日:2004/11/25(Thu) 22:31 No.18 
「今夜も?」
「うん」
いつもの会話が繰り返される。話かけられるだけ、まだましなのだろうか。健一は、背中を向けて寝てしまった麻子を見て、そう考えていた。

チャットには、姫しかいなかった。
へぇ・・・珍しい。ダンナが寝てからチャットに入るという姫が、この時間から入室してるなんて。ダンナが早く寝たのだろうか。

K:こんばんは
姫:あっ、こんばんは。
K:こんな時間から、めずらしいね。旦那さん、もう寝たの?
姫:今夜、出張でいなくって
K:羽を伸ばせるわけだ(笑)
姫:うん・・・・・

何だろう、この返事は?健一は、妙にひっかかった。

第3章 4 投稿日:2004/11/29(Mon) 00:03 No.19 
K:どうかしたの?
姫:うん・・・まあね。

続きを聞いていいのだろうか?チャットで出会って数回だというのに・・・いや、回数をもっと重ねていたとしても、立ち入った話になってしまってもいいのだろうか・・・しかも、オープンなチャットだから、誰が見ているかわからない。

K:もしよければ、聞くよ

ああ、打っちゃった。でも、これで言うかどうかは本人の判断だ。そう自分に言い聞かせた。

姫:実は・・・
K:うん?
姫:不倫をしてしまいそうなんです

一瞬、健一は息を飲んだ。

第3章 5 投稿日:2004/11/29(Mon) 23:33 No.20 
K:不倫?
姫:うん。そう。
K:相手はどんな人?
姫:3つ年上で、その人も結婚してて・・・
K:結婚してる人なんだ
姫:うん。その人に誘われてて・・・

最近では、とくに珍しい話でもないのだろう。同じ課でも、不倫の噂のある人はいる。でも、本人に、しかも進行するかもしれない話、というのは、心底驚いた。心の準備も無かった。

K:働いてたっけ?
姫:ううん。専業主婦
K:じゃ、どうやって知り合ったの?
姫:ネットで・・・

健一は、さらに驚くことになった。

第3章 6 投稿日:2004/11/30(Tue) 22:28 No.21 
K:ネットって・・・ここ?
姫:ううん。違うとこ。
K:じゃあ、その人と会ったの?
姫:うん。
K:オフ会で?
姫:うん。最初はね。でも、とても気が合って、2人で会うようになって・・・

本当にあるんだ、そんな話。テレビだっただろうか、ネットで知り合っての不倫とか、結婚なんかの話をやってたっけ。それを見たときは、へぇ〜、世の中もそれだけ進んでんだなぁ、位に思っていた。もちろん、自分の身の回りに起こるなんて想像もしていなかった。

K:それで、どうしたの?
姫:彼に迫られてるの・・・

姫、っていくつくらいなんだろう?新婚だったはずだから、俺より少し年下くらいだろうか。どうしてこうなっちゃったんだろう?夫婦仲が悪いのかな?旦那が忙しくて、姫の事をかまってないのだろうか?
健一は、姫をとりまく状況をあれこれ想像していた。

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