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感染
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第4章 9 投稿日:2004/12/13(Mon) 22:41 No.33 
みつ:お互い、信頼してるんじゃないの?
とーち:ヒューヒュー(笑)
K:(笑)
みつ:(^^)
K:最近、夫婦らしい事してないしなぁ・・・
みつ:夫婦らしい事って?>K
とーち:すけべ(笑)>K
K:君には負ける(笑)>とーち

K:何て言うか、男と女じゃないんだよ

健一は、打たなきゃ良かった、と思った。そこまで言うつもりはなかった。話の流れから、つい言ってしまったのだ。麻子が見る事はないが、この雰囲気を何とか変えたいな、と次の話題を探していた。少し重くなってしまったな・・・。

『姫さん、いらっしゃい』
あ、姫が来た。話題が変わるいいチャンスだ。いや、まてよ・・・よけいに雰囲気が重くなるかも・・・健一はそんな事を考えていた。
とーち:彼は元気?>姫
姫:元気(^^)>とーち
みつ:あっ、いいな、いいな〜>姫
K:彼氏いないの?>みつ
みつ:いないわよ〜>K<彼氏になってくれる?(笑)

健一は、画面に向かって、苦笑いをした。この手の冗談、苦手なんだよな・・・100%冗談、とわかっていても、もしかしたら、なんて気になってしまう。もちろん、わかっているけどね・・・。

美津子は、画面を見て、ドキドキしていた。もちろん、冗談なんだけど、Kさんが真面目にとったらどうしよう?まあ、大人だし、上手く切り返してくれるとは思うけど。Kさんには、奥さんとお子さんがいるしね・・・。

第4章 10 投稿日:2004/12/14(Tue) 23:00 No.34 
K:妻に内緒に出来るなら(笑)>みつ
とーち:奥さ〜ん、Kが浮気しようとしてますよ〜(笑)
みつ:(^^)
姫:そうそう(笑)>K<内緒にしとかないとね、大変なことになるよ。
とーち:実感がこもってる(苦笑)
K:そりゃそうだろうね(笑)
みつ:うんうん

姫:でも、ダンナの様子がおかしいんだよね・・・何か感づいてるような

そうなんだ・・・。健一は、驚いた一方で、いずれはそんな日も来るだろうな、という感想も持った。本人は変わらないつもりでも、周りから見れば、その変化は気がつくのだろう。声の調子、服の趣味、お金の使い方、等々・・・。

「ええっ!?」
美津子は、思わず声をあげてしまった。ダンナさんも、姫さんに全く感心がないわけじゃないんだ。そりゃ、夫が浮気してるかもしれない、なんて思い出したら、もう、不安で不安で仕方がなくなるんだろうなあ。かといって、本人にずばりと聞き出すなんて、できないだろうなあ。

姫:あ、ダンナが帰ってきたから、落ちるね。

そうして、姫は退室していった。

第4章 11 投稿日:2004/12/16(Thu) 23:11 No.35 
その後、姫はチャットに現れなかった。どうしたのかな、姫・・・。
健一は、師走の空を眺める事なく、下を向き、家に向かって歩いていた。
今日は帰りづらいな・・・。
健一は、どこか寄り道するところはないか、考えていた。今朝、麻子の話を生返事で「うん、うん」言ってたら、「真面目に話を聞いてよ!」と怒鳴られてしまった。
俺も悪いけど、何も怒鳴ることねぇじゃねえか。そういや、麻子、どんな話をしてたっけ・・・忘れてしまった。まあ、そんなに大事な話でもなかったんだろう。

駅に着いたが、改札の中に入らず、駅の周りをぶらぶら歩いてみることにした。こんな寒空の中、よくそんなことをするもんだ、と自分に失笑して、「ふっ」と小さな声をもらした。
結婚してから3年近く、この辺りまで来た事がなかったので、様子がずいぶん変わってしまったことに驚いた。あ、ここの酒屋、コンビニになってる、とか、更地になってて、以前の建物を思い出せないとか、いろいろな発見があり、楽しかった。
と同時に、寂しさを感じた。あの時、ここにあった店には、もう行けないんだな・・・2度と食べられない味もある・・・その時を逃すと、2度とめぐりあえないことって、あるんだよな・・・。
でも、3年も来なかったのは、必要としていなかったからじゃないのか?
もう、どうでもいいや。帰ろう。寒いわ。
健一は、家路についた。

第4章 12 投稿日:2004/12/19(Sun) 22:28 No.36 
『姫さん、いらっしゃい』
おお!健一は声をあげそうになった。

K:こんばんは>姫<おひさ
みつ:こんばんわ!>姫<元気してた?
姫:うん。ありがとう。元気だよ〜

美津子は、姫の久々の入室にほっとした。やっぱり、メンバーが減るのって、寂しいからね・・・

姫:即落ちなんだけど・・・
K:いいよ、そんなの
みつ:残念〜、ゆっくりしていって〜
姫:報告をしようと思って来たの。
K:何?
みつ:どうしたの?

姫:ダンナに彼の事がばれちゃって・・・彼と別れました。そして、ネットにも入らないことにしたの。足をあらおうと思って・・・
みつ:ええっ!?
K:そ、そうか・・・
姫:今まで、ありがとう。みんなにもそう伝えて。それじゃ、さようなら
『姫さん、またね』
こうして、HNから「姫」という文字はなくなっていった。

第5章 1 投稿日:2004/12/20(Mon) 22:49 No.37 
健一は、その日をさかいに、家でパソコンを触らなくなった。
「今日もパソコンしないの?」
「うん」
麻子は、へぇ、とかすかに声をあげ、凛のおむつをかえた。
『ダンナに彼の事がばれちゃって・・・』
姫の報告が、頭から離れなかった。姫の家では、どんなドラマが繰り広げられたんだろう?ダンナが怒り狂って、姫の顔でもはったおしたんだろうか・・・家の中で、お互いを罵倒するような声が響き渡ったのだろうか・・・ただ、ダンナが、彼と俺のどっちを取るんだ?と選択を迫ったんだろうか・・・どちらにせよ、夫婦はもとのさやに収まったのだ。
それなら、姫にとっての彼はなんだったんだろう?夫へのはらいせ、トキメキを求めた結果見つけた相手、体を温めるための都合のいい男、それとも、本当に結婚をも考えた人・・・。
『彼と別れました。そして、ネットにも入らないことにしたの。足をあらおうと思って・・・』
ふっ、足をあらうか。なるほど、ネットってもんは、足を洗うべきものかも知れないな・・・。
頭から、冷や水をかけられたようだった。しょせん、顔も知らない、素性も知らない者同士の、言葉の垂れ流し・・・
健一は、考える事をやめ、早々に寝るのだった。

第5章 2 投稿日:2004/12/21(Tue) 22:48 No.38 
美津子は、今夜もパソコン画面に向かっていた。梅酒のお湯割りを少しずつ飲んでは、キーボードをたたいたり、マウスをクリックしたり、その音がコツン、タンタンタン・・・・・・・カチカチ・・・・・部屋の中に響いていた。
「ふぅ・・・」
心なしか、ため息が増えたなあ。美津子はそう思うのだった。チャットをのぞいてみる・・・参加者・・・貧乏人、とーち、か・・・
二人の会話は、美津子にとって、興味をそそられる内容ではなかった。でも、期待して、入室した。
『みつさん、いらっしゃい』
みつ:こんばんわ〜>おおる
貧乏人:こんばんは>みつ
とーち:ばんわ>みつ

そういや、あれから姫もKもこないなあ。やっぱり姫は足をあらったんだろうか。でも、Kまで来なくなったのは、なぜだろう?
時々、ふ〜ん、とか、うん、とかあいづちを打つものの、意識はそっちに傾いていた。
まさか、姫の不倫相手って、Kさん?!だとしたら、入室して来ないのも納得できる・・・。
はっ、まさかね。それじゃ、あの時の報告はおかしいわ。でも、あの時、私がいたから、つじつまを合わせるために、あんな芝居めいた発言をしたのかしら・・・

貧乏人:おーい、いてるか?>みつ
とーち:みっちゃん!きこえるかー!!!きこえるわけねえか(笑)

ああ、いけないいけない。発言してなかった。
美津子は、ログを見て、会話の内容を確認して、慌てて発言を始めた。

第5章 3 投稿日:2004/12/28(Tue) 15:08 No.39 
「太田さん!」
「は、はい!」
「あのねえ、それじゃ困るのよ」
うわぁ、また怒られる。おっしゃりたい事はわかってるんですが、無理ですよ。高校生にもなって、躾をこっちにふられても・・・。そりゃ、努力はしますよ。してますよ。でも、今のはどうしようもないでしょ、もう・・・。それに、だめだと思うんなら、自分で言ってくださいよ。自分で言いもしないのに、いなくなってから、私にだけ責めるのって、おかしくないですか?
でも、それを言い出せない美津子であった。

ああ、誰かに聞いてもらいたいなあ。でも、友人は結婚してるのばっかりだし。職場の人にもよう言えんし。チャットでもなぁ・・・Kさん、いないもんなあ。貧乏人やとーちもいるけど、なんか、嫌がられそうな気もするなあ。やっぱり、Kさんなら、そんなことなく、ちゃんと聞いてくれるもんな。ああ、不倫してるんだろうか・・・。

健一は、残業を終え、帰ってきた。家の中が暗いことに驚いた。リビングの電気をつけた。食卓に1人分の食事が置かれていた。寝室に行くと、麻子と凛がベッドで寝ていた。きっと、起きている間、ここでは2人の世界が繰り広げられていて、今夜はもうおやすみなのだろう。
そこに、俺は出てこない。
電子レンジでごはんを温めた。おかずも温めようとしたが、やめた。無言のまま、それをかきこむ。茶碗の表面が妙に熱く、ご飯を食べ進むうち、妙に冷たい部分にたどり着いた。温め直すことなど、する気もなかった。


第5章 4 投稿日:2005/01/02(Sun) 00:40 No.40 
遅すぎる夕食を終え、パジャマに着替えた。
寝室に入ると、ふと、パソコンに目がいった。しばらく眺めた後、パソコンの電源を入れた。
健一は、その動作に懐かしさを感じた。2週間くらいしかパソコンから離れていなかったのに、それくらいの距離感を感じた。
チャットの画面が現れた。参加者・・・とーち、貧乏人・・・あ、みつもいた。発言が少ないんで、一瞬いないかと思った。
チャットに参加する、をクリックする時、興奮と言えば大げさだろうか、期待と不安が入り混じった状態だった。まるで、長い間学校を休んでいた小学生のような。
しばらく眺めていた後、マウスを動かした。

「ああ!」
美津子は思わず声をあげた。『Kさん、いらっしゃい』と画面に表示された。
うわ〜、何してたのよ、今まで!怒るのとは違う、不思議な感情が湧きあがっていた。
そして、ほっとした。
そして、とても、嬉しかった。
真っ先に美津子が発言した。

第5章 5 投稿日:2005/01/03(Mon) 23:09 No.41 
みつ:久しぶり!どうしてたの?

美津子は、発言後に、いつもの「こんばんわ〜」とか、「>K」を入れてないことに気づいた。酔ってない時に打ち間違いするなんて、珍しい。よっぽど慌てて打ってしまったんだわ・・・。

K:こんばんは>みつ<おひさ
とーち:なつかしいなあ(爆)>K<こん!
貧乏人:こんばんは>K<ごぶさた
K:おひさです>とーち、貧乏人

久々だなあ、この感覚。健一は、安心感を覚えた。と同時に、チャットに安心感を覚えた自分に、不安を感じた。本当は、この感覚を、家族に、妻に感じるべきものじゃないだろうか・・・。

あれ?美津子はいぶかしげた。近況についての報告を、いつまでたってもKさんがしないからだ。言いにくいのかな・・・でも、この機会を逃すと、今度いつ会えるかわからないから、ぜひ聞いておきたいことがあるんだ・・・

みつ:姫が来なくなったから?

美津子は、打った後でも、発言の最後に(笑)を入れるべきかどうか、悩んだ。でも、ここに(笑)を入れてしまうと、私のニュアンスが伝わらない・・・

健一は悩んだ。姫が来なくなったから、というのはあながち間違いではない。だが、姫とチャットできなくなったから、という理由ではない。そして、健一自身、なぜしばらくチャットをしなかったのか、上手く説明が出来なかった。でも、このまま流す、ということが出来ない。何か返事を打たないと・・・
健一は、ゆっくりとキーを打ち始めた。

第5章 6 投稿日:2005/01/04(Tue) 23:16 No.42 
K:違うよ>みつ

違うんだ・・・美津子は、ほっとしたような、でも、それでいて不安も残った。じゃ、どうして来なかったの?
美津子は、冷静に考えられなくなっていた。

『とーちさん、またね』
貧乏人:じゃ、私も雪崩れます
『貧乏人さん、またね』
K:おやすみ>とーち、貧乏人
みつ:おやすみなさい>とーち、貧乏人

気がつけば、1時を回っていた。
みつ:あのさあ、聞いていい?
K:うん?
みつ:しばらく来なかったのは、どうして?
K:あ、またその話?
みつ:うん。気になって。

健一は、戸惑った。どうしてみつはこうもしばらく来なかったことにこだわるんだろう?単に気になるだけなのかなあ・・・

K:姫のことがきっかけになったのは確かなんだけどね・・・

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