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感染
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第7章 10 投稿日:2005/02/20(Sun) 21:54 No.63 
グラスにビールを注がれながら、幹事の様子を横目で確認していた。
今は話してるな・・・。
健一は、腕時計をチラッと見た。8時前・・・開始1時間半近くは経っている。場もだいぶ崩れてきて、元の席にいる人間が半分くらいになってきていた。おそらく、8時半から9時の間に1次会が終わるだろう。終わってから出ようか?
ただ、逃げ切れなかった場合、出るのがますます遅くなる・・・。
いや、やはり途中で抜けよう。
幹事が外に出た・・・チャンスだ!
健一は、ゆっくりと立ち上がった。

美津子が梅田に着いたのは、7時前だった。あまりお腹が空かないので、予定通り、ロフトでウインドウショッピングをしていた。左手首の腕時計を見ると、8時を指していた。ぼつぼつ、紀伊国屋に移動しようか・・・。
Kさん、まだ宴会の最中かなあ。早く連絡こないかなあ。私から連絡とろうかなあ。どうしようかなあ。迷っているが、顔から笑みがこぼれていた。

第7章 11 投稿日:2005/02/21(Mon) 22:05 No.64 
メールの着信音が鳴った。
きたっ!美津子は、慌てて携帯を取り出した。受信メール・・・Kさんだ!
『噴水の広場で、8時40分に。黒っぽいスーツ着てる。着いたら電話するから。』
ああ、いよいよだわ!
美津子は、声をあげそうになるくらい喜んだ。
今、ちょうどロフトから紀伊国屋に向かって歩いてる途中であるが、JR大阪までは少し遠い。えっと、8時10分か。うん、それなら間に合う。『OK』のメールを送った。

健一は、店を出て、歩きながらメールを打ち、送った。後ろを振り返った・・・よし、誰もいないな。知ってる奴と顔を合わせたら、やっかいだからな。
腕時計は、8時10分をさしていた。難波から、地下鉄に乗り込んだ。
地下鉄に乗るのだから、もう少し便利な待ち合わせ場所を選べばよいのだが、梅田にあまりくわしくない事と、大きい所で待ち合わせをするのに自信がなかった事が、待ち合わせ場所をJR大阪の噴水の広場にさせたのだった。
なにせ、初対面である。こじんまりしたところでないと、見つけられないかもしれない。健一は、とっさにそう考えたのだった。
地下鉄が、梅田駅に着いた。健一は、扉の側に立ち、開くと小走りに改札へと向かうのだった。

第7章 12 投稿日:2005/02/22(Tue) 21:52 No.65 
信号が変わるまでの待ち時間が表示されている。健一は、地上に出ていた。慣れた人ならもっとスムーズにJRまでいける道を知っているだろうが、詳しくない健一は、案内表示の導かれるがまま、外に出てしまったのだ。
信号が青に変わった。小走りで横断歩道を渡る。腕時計を見る。8時35分・・・ぎりぎりだな。待ち合わせを8時30分にしなくて良かった、と健一は思った。

健一が噴水の広場に着いたのは、8時38分だった。
さっそく、辺りを見回す・・・行き交う人は思ったより多いが、立ち止まっている人はまばらである。時間が時間である。きっと、みつも同じように俺を探している事だろう。

黒いスーツ、黒いスーツ・・・いないなあ。
美津子は、もうかれこれ15分はこう探していた。着いたら電話する、というから、こっちからは連絡しないように決めていた。それに、こうやって探しているのも、結構悪くないな、と思っていた。
40分を過ぎても、会えなかったら、電話しよう。過ぎたんなら、いいよね・・・『どうしたの?』なんてね・・・

健一の目に、一人の女性が飛び込んできた。いや、その女性の視界に健一が飛び込んだ、と言ったほうが正しいのかもしれない。その女性は、小柄で、眼鏡をかけ、少しポッチャリとした、可愛い感じの人だった。きょろきょろ、辺りを見回している。自分の持ち物や、店を探してるのではなく、その目の追い方は、明らかに人を探していた。
みつだ・・・健一は、確信した。携帯をかけてみる・・・それで、携帯に出れば、間違いない。
健一は、リダイアルのボタンを押した。

第7章 13 投稿日:2005/02/23(Wed) 20:51 No.66 
あっ、かかってきた!
美津子は慌ててカバンの中を探す・・・あった!着信が切れないように祈りながら、通話ボタンを押した。
「もしもし」

「あ、もしもし。Kです」
そう言いながら、みつの姿を確認していた。やはり、あの人だったんだ。まるでテレビ電話か、ドラマのようだった。
「Kさん?みつです」
そして、二人の目が合った。
「もしもし?」
「もしもし?」
お互い、電話に出ている相手を確認する・・・噴水をはさんで、男女が向かい合って電話で話をしていた。
健一は電話を切った。
美津子も、電話が切れたのに気づいて、電話を切った。
お互い、噴水を横切れないもどかしさを感じながら、近づいていった。

そして、二人は出会ってしまった。

「えっと・・・」
「はじめまして」美津子が切り出した。
「あ、そっか。そうなるよなあ」健一が笑った。
こんな笑い方をする人なんだ、と美津子は思った。イメージ通りの人、と言われれば、そうと言えるし、イメージとは違う、とも言える。ただ、言えることは、今、とてつもなく恥ずかしく感じる、ということだった。それは、小学校の同窓会で、久々に友人に会った心境にも似ていた。
美津子は、少し照れくさそうに笑った。

第7章 14 投稿日:2005/02/24(Thu) 22:41 No.67 
「えっと・・・」
「がっかりしたでしょ」
美津子はそう言った。そう言わずにはいられなかった。チビだし、太いし、メガネだし、みてくれにコンプレックスがいっぱいあるからだ。
でも、そんなことないよ、って言って欲しい自分もいた。
「何で?」
「いや、だって、ちっちゃいし」
「かわいいやん」
「太いし」
「そうでもないやん」
「メガネで」
「知的に見えるよ」
やっぱり、Kさんだ。期待した通りの、いや、それ以上の答えが返ってきた。
「かわいいやんか」
美津子は、顔が赤くなりませんように、と祈った。
「それ言うたら、そっちこそ、がっかりしたんちゃう?」
「どうして?」
「太いし、ふけてるし」
「ううん、そんなことないよ」
「ありがとう」
健一は、お礼を言った。
「あの・・・」
「うん?」
「どこか、行きませんか?」
「あ、そうだね」
二人は、旧友のように笑った。

のり > そろそろ「777」かと思って、楽しみにしてたら、「778」でしたぁ^^;次は、「888」狙うので、早く更新してくれー!(笑)って、そんなコーナーじゃないって!(爆) 今後の展開に大期待中・・・^^ 負けないように頑張らねば・・・(謎) (2/27-23:01) No.68

第7章 15 投稿日:2005/02/27(Sun) 23:12 No.69 
健一と美津子は、阪急の方へ向かって歩き始めた。
「どこへ行くの?」
「私が割りと好きな・・・居酒屋、っていうのかな・・・あまり居酒屋っぽくはないんだけど、料理がわりとおいしいから」
「いいね、それ」
「喜んでもらえたら、うれしいんだけど、Kさん、飲み会だったから、ある程度食べてきてるでしょ?」
「まあ、確かに」
「そこなら、あまり食べなくても、いづらくないかな、と思って」
「ふむ」
細かい心遣いをする人なんだな、と健一は思った。
5分ほど歩いて、その店についた。商店街の一角だが、そこだけ、たたずまいが一変していて、おしゃれだった。

「乾杯!」
健一と美津子は、グラスをかわした。
「おなかがすいただろ?」
「まあ、少しは」
「悪かったね、待たせてしまって」
「ううん、そんなことないよ」
美津子は慌てて首を振った。

第7章 16 投稿日:2005/02/28(Mon) 22:03 No.70 
健一は、飲みながら、あることについて悩んでいた。
本名を名乗るかどうか、ということだ。
みつの話を聞きながら、その事を考えていた。もうかれこれ1時間近く経つ。料理もあらかた出尽くしてしまって、最後のしめをどうするか、みたいな状況である。
みつが店員にメニューを指差しながら注文する横顔を見ながら、俺はみつとどうなりたいんだろう?と考えていた。
これっきりなら、名乗る必要もない。また会うことがあっても、名乗らなくちゃいけないこともない。でも、付き合い方によっては、それではすまなくなるかもしれない・・・。

「以上で」
美津子は、最後のデザートを頼んだ。もうおなかもいっぱいになってきた。ふと視線を感じて、目線を上げると、Kが何ともいえない表情をしていた。
「どうしたの?」
「え?いや、何も」
「奥さんのこと?」
「へ?いや、そんなこと、考えてなかったよ」
「いや、あやしいなあ。考えてたでしょ」
「考えてないって」
ふふっ、と美津子は笑った。からかう気はないのだが、真面目に反応するKさんの様子がおかしくて、そんなことをいってしまう。

デザートを食べ終え、健一は言った。
「今夜は楽しかったなあ」
「うん」
「もうそろそろ出ないと」
「もうそんな時間?」
時計は、10時をさしていた。美津子は、不意を突かれた気がした。
「今夜はありがとうね」
「こっちこそ。ネットの人と初めて会って、どきどきしたよ」

ネットの人と初めて会うから、どきどきしたのか?

「私も」

このまま、さよならしていいの?

そして、二人は店を出て、それぞれ帰路についた。

第7章 17 投稿日:2005/03/01(Tue) 22:26 No.71 
駅からの帰り道、健一は今夜の出会いについて考えていた。結局今夜出会ったのは、どういうことなんだろう?
単に、知り合いが1人増えた、ということなんだろうか。それ以上の意味があり、値打ちのあることなんだろうか。いや、値打ち、という言い方はおかしいか。じゃ、意義かな。
メリットは考えてなかった。ただ、俺に会いたいという女性がいて、必要とされているからこそ、会おうと思ったのだ。
下心?・・・全くない、といえば嘘になるが、相手がどう思っているか、ということによるものが大きい。こちらから誘う気はない。誘われたら・・・麻子に悪いか。
俺は、どうしたいのだろう?酔った頭でこれ以上考えるのは無理だった。

「おかえり」
「起きてたんだ」
「うん」
「凛は寝たの?」
「少し前にね」
「寝ればよかったのに」
「なんとなく、気になってね」
「何が?」
「今朝の事。うれしかったから」
ああ、そんなことがあったなあ。健一は、言われてやっと麻子が起きてた理由がわかった。
「そんなにうれしかったの?」
「うん」
急に、麻子の事をいとおしく感じた。
「なあ」
「え?」
「今夜、エッチする?」
麻子は少し驚いた顔をした。それから少しして、言った。
「もう、何言ってるの。酔ってるんでしょ」
「そりゃ、酔ってるけど」
「そんなのイヤよ。着替えて早く休んだら?」
健一は、急に酔いが冷めたような気がした。
「ああ、そうする」
そう言って、健一は寝室へ行った。

素直じゃないなぁ・・・私。
麻子はそう思いながら、夫の後姿を見送るように立ち止まっていた。

第8章 1 投稿日:2005/03/02(Wed) 22:38 No.72 
週があけて、健一はいつものように家を出て、駅で電車を待っていた。向いのホームには電車を待つ人でいっぱいだった。
人って、ようけおるんやなあ・・・。しかも、そのほとんどが、見も知らぬ赤の他人だもんなぁ・・・。
健一は、その後も、あの日の出会いについて考えていた。意味を見いだせないでいた。
きっと、みつがこの駅にいたとしても、それまでなら、その他大勢と共に、単なる赤の他人だったのだろう。
それって、すごいことなんじゃないのだろうか?
健一は、そこに運命的なものを感じてしまった。

健一は、いつものすいている下り電車に乗り、いつもの駅で降りた。
そして、いつもの道を歩く。

あ、いつものすれ違う彼女だ。
健一がいつもこの道ですれ違う、可愛い女性のことである。もちろん、赤の他人である。その彼女に、男がいるのを目撃して、動揺したこともあった。
でも、今日は一人なんだ。ふうん・・・。
あれ?後ろを歩いてる男・・・あの時、彼女の横にいた・・・!
けんかか?別れたのか?
もちろん、健一には、知る由もない。ただ、もし2人が付き合っていたとして、別れたとしたら、このまま一緒に歩く事もなく、いつしか顔を見なくなるのかもしれない。そして、お互いが別の相手と出会い、結婚する・・・。

人の出会いは、タイミングによって、大きく左右されるんだな・・・。

俺は、麻子とあのタイミングで出会い、結婚した。もちろん、その時の最善の選択だったと思う。だが、もし、その前にみつと出会っていたら、どうなっていたんだろう?
どうにもならないか。何より、1度しか会ってない相手じゃないか。

でも・・・。

健一は、いつものように市役所の玄関横の扉を開け、中に入って行った。

第8章 2 投稿日:2005/03/03(Thu) 22:10 No.73 
みつ:おやすみなさい〜
K:おやすみ>みつ
とーち:おやすみ>みつ
貧乏人:またね>みつ
『みつさん、またね』

美津子は、眠くなったので、落ちることにした。いつもより少し早い時間だ。Kさんとは、その後もメールや電話、チャットとでのやりとりがあるだけで、会う前とさほど変わりがなかった。
でも、美津子の中では全然違う部分もあった。Kさんの顔、声、姿、しぐさ等々思い出しながら接している。
もちろん、チャットの中では二人は会ったことがないことになっていた。別に二人の間で約束をしたわけではない。ただ、暗黙の了解、というか、チャットでそんなことを言わない方がいい、と感じたのだ。Kさんも同じなのだろう。
美津子はパソコンの電源を切り、ベッドに入った。
どうしようかな、これから・・・。
美津子は、気持ちの整理がつかないでいた。あの時、無性に会いたくなって、でも、会って何がしたいわけでもなく、ただ会って話が出来たら、それでよかった。また、会う事が決まった瞬間、その時の辛い事など、ふっとんでしまった。相談するとか、愚痴を聞いてもらうとか、そんな目的もなくなっていた。

また、会いたいなぁ・・・。

1度しか会ってない相手なのにね。本名も知らないのにね。

でも・・・。

美津子は、眠気が少しずつ冷めていくのがわかった。

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