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すべては電話から
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分岐点A 投稿日:2004/08/03(Tue) 22:16 No.107 
「俺は、清水のこと、好きなんやと思うけど、明日香のことも、正直気になってる」
「うん」
「だから、俺に時間をくれへんか?」
しばらく清水は黙っていた。俺は正直に今の思いを言った。だが、それを清水に伝えて良かったかどうか、それはわからない。
「うん。ええよ」
「ありがとう」

自分がとてもひどい男のような気がしてきた。好意を寄せているだろう女性に対して、君も好きやけど、元カノも忘れられへんから、二股かけるわ、と言ってるようなもんである。
でも、それをあいつはよう納得したもんや。というか、そうせざるをえなかったのかもしれない。

とにかく、俺は、誰の事を・・・

俺は浅い眠りについた。

分岐点B 投稿日:2004/08/04(Wed) 22:44 No.108 
夏休みだから、大学へはクラブに行くぐらいしか用事はない。しかも、クラブに属してない清水や明日香と出会うはずもない。8月になり、合宿の時期に入った。主務として、合宿所の手配はもう済んでいる。
なのに、何かすっきりしない。やり残しているような気分だ。まあ、当たり前である。
清水と明日香、どっちを選ぶのか・・・いや、この言い方は正しくない。清水の気持ちは多分わかっているが、つもりでしかない。はっきりと、好き、と言われたわけではない。告白したところで、またふられる可能性もある。明日香だって、『別れても、それはそれでつらいの』と言ってきただけだ。よりを戻したいのかどうか、『わからない』と言ってるわけだし。
もしかしたら、二人とも、失うのかもしれない。二兎追うものは一兎も得ず、とも言うし。
でも、それも仕方がない。ただ、納得のいく判断をしよう。易きに流されるのはやめよう。俺はそう心に決めた。

数日後、大学でいつものようにクラブの練習をして、学食の前の自販機で飲み物を買おうとした時、
「あら」
と声がしたので、ふりむいた。
そこには、辰巳直子が立っていた。

理由 投稿日:2004/08/05(Thu) 20:54 No.109 
「今日、クラブ?」
「そうや。そっちもか?」
「うん」
吹奏楽部も練習のようだった。
「クラブ、終わり?」
「うん」
「じゃ、いっしょに帰ろうか」
「いいよ」
直子ちゃんと一緒に帰ったのは何ヶ月ぶりだろうか。少なくとも、3回生になって初めてである。
「あれから、遠藤とは会ってないの?」
「うん。えん先輩とは連絡とってないから」
「新しい彼、出来たか?」
「ううん。さい先輩は?」
「まあ、ちょっと・・・」
「前の彼女さんとは別れたんよね?」
「別れたよ、でも・・・」
俺は、今の状況を説明した。清水への思い、明日香からの電話、そして待たせていること・・・。話していくうちに、ああ、誰かに聞いてもらいたかったんやなぁ、と改めて思った。

理由A 投稿日:2004/08/06(Fri) 22:32 No.110 
「それで、どうするの?」
直子ちゃんが聞いてきた。
「まだ、気持ちの整理がつかなくて」
「あのね」
「うん?」
「もし、明日地球が滅亡するとしたら」
「???」
「誰のそばにいたい?」
「ああ、そういうことか。何を言い出すんやと思った」
「私はね、そう考えた時、えん先輩やってん」
「なるほどな」
「だから、さい先輩が、どっちと一緒にいたいのか、考えてみるのって、いいと思うよ」

家に帰ってから、直子ちゃんが言ったように、明日地球が滅亡するとしたら・・・と、考えていた。誰のそばにいたいのだろう?
すると、電話がなった。清水からだった。

理由B 投稿日:2004/08/07(Sat) 21:14 No.111 
「もしもし、斎藤君?」
「ああ、清水、えらい電話遠いなあ」
「鳥取からやねん」
「なんでまた、そんな所に?」
「今日から合宿の免許とりにいってんねん」
「ふうん」
その後、合宿での話をしばらく聞いていた。
「で、そっちの話はないの?」
「いや、特に」
「ふうん」
何か物足りげな、そんな印象だった。
「あ、前の彼氏から電話があってん」
「ええっ?!」
唐突に、かつ衝撃的だった。
「何て?」
「鳥取まで行こうかな、だって。それじゃね」
プツッ、と電話が切れた。

決断 投稿日:2004/08/08(Sun) 22:08 No.112 
昨日の夜は、寝苦しい夜だった。あの電話の後だから、なおさらだ。
清水の元彼から電話・・・鳥取へ?何をしに行くというのだろう。

よりを戻そうというのか?

よりが戻った時のことを想像した・・・また、清水が彼の家へ通うのだろう。洗濯、掃除、食事の用意をして、そして、彼に抱かれるのだろうか・・・

自分の中に、何か、熱を帯びたようなものが、胸の奥に存在する感じがした。そして、その熱が全身にまわってきた・・・震えが俺を襲った。

確信した。清水を失う事は、もう想像を絶する状態に来ていた。

その日の夜、電話をかけようとした時、電話がなった。
誰からだろう・・・明日香からだった。
「もしもし」
か細い声が受話器から聞こえてきた。
「聡?」
「ああ」
俺は答えた。

決断A 投稿日:2004/08/09(Mon) 21:31 No.113 
「ん?何?」
「いや、あれからどうしてるのかな、って思って・・・」
明日香の落ちついた声。
「あれから、考えたんだけどさ・・・」
「何?」
「もう、終わりにしよう。こんなこと」
「電話の事?」
「そう」
明日香のため息のような声が聞こえた。
「そうだよね」
「今まで、楽しかった思い出、ありがとうな」
「ううん。こっちこそ」
「それに、ずいぶん嫌な思いもさせてもうたけど、ごめんな」
「ううん、それかって・・・」
「でも、どうして、こうなってしもうたんやろうな」
「わかんないね」
ふっ、と俺は笑った。確かにそうだ。今となっては、何が原因か、よくわからない。
でも、別れる理由なんて、そんなものかもしれない。

決断B 投稿日:2004/08/10(Tue) 20:37 No.114 
「今から思えば・・・」
「何?」
「なんか、ままごとのような付き合いだったな」
「ままごとか・・・そうなのかもね」
俺の言いたい事がどれくらい伝わったかどうか、自信はなかった。でも、ままごと、という表現が一番しっくりきた。
「お互い、分かり合えなかった部分があったんだと思う」
そうだ・・・そうなんだ・・・
「最後の一線を越えてたら、また違ってたのかもしれんな」
「そうかもしれないね」
ふと、河原の事を思い出した。彼の失敗が頭に残ってたから、かえって素直になれなかった。
でも、付き合っていた頃に戻りたいとは思わなかった。きっと、別の事でまたけんかをし、別れることになるのだろう。そんな気がした。
「じゃ、もう電話しないね」
「ああ」
そして、電話を切った。ふと、頬に涙が伝わるのを感じた。
それをぬぐって、深呼吸をした・・・もう、迷わない。
清水に電話をかけた。

決断C 投稿日:2004/08/11(Wed) 09:59 No.115 
「もしもし」
「もしもし、あ、斎藤君?」
「そう。合宿免許、どない?」
「がんばってるよ。でも、まだ2日目やし、よくわかんない」
「そうか」
「で、用事は?」
一瞬、言葉に詰まったが、切り出した。
「前の彼氏、来たんか?」
「昨日の電話の事?」
電話口で、くすくす笑っているようだった。
「うん?!何?!」
「来てないよ」
更に笑い声が大きく聞こえ、確信した。
「昨日の電話、うそやろ」
「いや、電話があったのはホントだよ」
「そうなん?」
「でね、いろいろ話してくれてん。別れてからのこと」
どんな話なんだろう・・・できるだけ平静を装い、どんな告白があっても、うろたえないよう、あらゆる状況を想定した。

決断D 投稿日:2004/08/12(Thu) 09:28 No.116 
「いや、電話があったのはホントだよ」
「そうなん?」
「でね、いろいろ話してくれてん。別れてからのこと」
どんな話なんだろう・・・できるだけ平静を装い、どんな告白があっても、うろたえないよう、あらゆる状況を想定した。
「あの子な、別れてからすぐに別の彼女と付き合い始めたんだって」
「ふ〜ん」
ホッとする反面、ムッとする。
「それも、すぐに別れたんだって」
「へえ、何で?」
「その人はね、掃除や洗濯や料理をあの子の部屋でするような子じゃなかったらしくって」
「ふむ」
「『お前はえらかったんやなあ』だって。今ごろ気付いても遅いっちゅうねん」
ふふっ、と俺は笑った。清水も笑っていた。
「それで、よりを戻そうって?」
「まさか。本心は知らないけど、そんなこと言わへんわ、あの子」
「それだけの電話?」
「一言、えらかったんやなあって、言いたかったらしいよ」
ふうん、と相づちをうった。やはり、彼には未練があったのではないだろうか。あるいは、1年も前のことだから、清水の言うとおり、それが言いたかっただけなのだろうか。

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