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すべては電話から
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動揺B 投稿日:2004/07/20(Tue) 20:15 No.93 
あの言葉は、いったいどういう意味だったんだろう。

「別れても、私がついてるからね」

電話を切った後も、清水の優しい声が耳から離れない。1年経って、清水の気持ちが変わったというのか?じゃ、俺は?俺の気持ちは?

俺は明日香のことが好きだった。その気持ちは本当だったし、付き合ったことに後悔はなかった。

しかし、ここで、気付いた。すべて、過去形になっている。

でも、清水を理由に別れたくはなかった。そんなことをすれば、友達である清水と明日香の仲はどうなる?

そもそも、俺自身の気持ちが、今はわからない。明日香とうまくやっていきたい、という気持ちもある。清水の気持ちだって、はっきり分かったわけでもない。
夏の訪れと共に、事態がヒートアップしていきそうな気がしてならなかった。

混乱 投稿日:2004/07/21(Wed) 14:49 No.94 
7月に入った。大学の授業ももうすぐ夏休みをむかえるにあたって、小テストやレポートを求められる時期に入った。
「あ、ちょっと待ってて」
彼女を待たせて、レストランに入った。外から理学部のやつがいたからだ。レポートやノートの確保をせねば・・・と考えていた。
「おう。昼飯?」
「そうや。そっちは?」
「彼女と今から食おうかと思って」
「ええのう」
「そんなことはともかく・・・」
と、レポート、ノート対策の打ち合わせをしていた。

時間にして、5分くらいだったろうか。急いでレストランを出た。
「お待たせ」
彼女の返事がない。嫌な予感がした。
「どうした?」
「どうしたって、どうしていつもそうなのよ!周りのことばっかり考えて!私のことなんか、考えてないでしょ!」
「そんなに怒る事ないやろ」
ふと、自分の中で、何かが切れるような感じがした。

混乱A 投稿日:2004/07/22(Thu) 22:22 No.95 
「もしもし、俺だけど」
「どうしたの?」
「別れようか」
もっとためらって言うかと思ったが、自分でも驚くほどあっさりと言ってしまった。まるであいさつをしたかのように。
「・・・やっぱりね」
「やっぱり?」
「うん」
「そうか」
「あの・・・お願いがあるんだけど」
「何?」
「私がふったことにして」
そんなことは、俺にとってどうでもいい事だった。彼女のプライドなのか、ふったことで悪役を買って出た、ということなのか。彼女がどう思っているかすら、興味がなかった。
「ええよ」
「ありがとう。じゃ」
「じゃあ」
電話を切った。お互い泣く事もなく、ただ、いつもよりトーンの下がった電話、というだけのことだった。

混乱B 投稿日:2004/07/23(Fri) 22:26 No.96 
「別れたんだ」
「うん」
「そっか・・・」
偶然あった清水に、報告をした。もうすぐ夏休みをむかえる、大学のキャンパスはいつにもまして、暑かった。
「どっちから言い出したの?」
「言い出したのは俺。でも、俺はふられたことになってるねん」
「どういうこと?」
「あいつがな、『私がふったことにして』って言いよってん。だから」
「ふうん。そんなこと、どうでもいいのにね」
そう。その通り。どうでもいい事だと思う。
「この夏は、予定あるの?」
「まあ、クラブの他は、遠藤と会うくらいか」
「東京に行くの?」
「いや、大阪に戻って来るって言うから、会う約束してん」
「そうなんだ。久しぶり?」
いつ以来かな・・・あ、風月でお好み焼きを食って以来だ。そういや、その時に、直子ちゃんと付き合うことになった話を聞いたんだっけ。ずいぶん前の話のようやな・・・
「うん。ずいぶん前のことやなあ・・・」

混乱C 投稿日:2004/07/24(Sat) 08:57 No.97 
遠藤と会う・・・待ち合わせは鶴橋だ。直子ちゃんと付き合うことになった、という報告を受けて以来の事だ。
あの時と同じ待ち合わせ場所なんてな・・・一人で笑ってしまった。あれから、ほんとにずいぶん時間が経ったもんだ。もう、気にならなくなっていた。過去のことだ。

久々にあった高校時代の親友は、いつにもまして痩せた印象を受けた。
「ちゃんと飯食うてんかい」
「いや、金ないからなあ」
「倒れんぞ、しまいに」
遠藤が苦笑いをした。
同じ待ち合わせ場所、そして、同じ店、風月に入った。
店員がお好み焼きを焼きにきた。具を手際よく混ぜる。いつもながら、その動きに見とれてしまい、会話が途切れる。
お互いのお好みが出来上がった。あいつは豚玉、俺は豚モダンだ。やっぱり、ここで麺は外せない。太いその麺は卵の味がしっかりして、生地とは別の味と食感を主張している。やっぱり、うまいなあ。変わらぬ味に、ほっとする。
「あのなあ」
遠藤が口を開いた。
「何?」
「俺な、直子ちゃんと別れてん」

混乱D 投稿日:2004/07/25(Sun) 21:32 No.98 
「な・・・な、なんでやねん・・・」
唐突の報告に、口がどもってしまった。高校の時から、遠藤と直子ちゃんという人間を良く知っている。2人とも、浮気をするようなたちではない。一体どういうことなのか・・・
「結局、俺にはもったいなすぎる彼女やねん」
「いや、言うてる意味がわからん」
「釣り合えへんねん」
「そんなんわかってるけど」
妙に二人とも吹き出してしまった。
「まあ、それは冗談として、どういう意味やねん」
「俺にはもったいなすぎて、俺だけのものにできへんかってん」
「いや、そもそも、直子ちゃんがそれを望んで、つきあったんやろ?お前が何を今さら悩む必要があるねん?」
遠藤は黙って聞いていた。俺はかまわずしゃべり続けた。
「もったいないとか、釣り合わないとか、考える事自体おかしいやないか。今のお前がええ、って付き合ってるやんか、直子ちゃんかて」
俺の直子ちゃんへの気持ちを知ってて、2年前に付き合いだしたんやろ?それくらい自分のものにしたかったんやろ?それを今さら、何言うてるねん・・・怒りというか、あきれるというか、説明できない感情がこみ上げてきた。
「・・・俺には理解できへん」

理解 投稿日:2004/07/26(Mon) 22:27 No.99 
家に帰ってから、部屋で一人、寝っ転がり、B’zを聞いていた。でも、どうにもスッキリしない。
人の気持ちって、不思議なもんだな・・・彼女に対する劣等感が、別れる理由になるなんてな・・・。

彼女って、いったいどういう存在なんだろう?

そんな根本的なことを考え始めてしまった。遠藤は、直子ちゃんに対して虚勢を張っていたのではないか。後輩で、可愛らしくて、人気のある彼女とつりあいの取れた男になろうとしたのだろう。
そう考えると、遠藤が言う理由も、わからないではない。きっと、疲れたのだろう。直子ちゃんにお似合いな彼氏を演じ続けるのに。それは、遠藤の生真面目さから来るものであって、周りの評価ではないのだろう。なにせ、2人は遠距離恋愛だ。
でも、遠藤、お前間違うてるで。彼女って、そういう対象の人間ちゃうやろう?むしろ逆で、一番自分のありのままをさらけだせる相手ちゃうんか?そうでないと、もたへんやん・・・。

家の電話がなった。誰からだ?親が取ると、わずらわしいから、早めに受話器を取った。
「もしもし」
「もしもし・・・あ、聡?」
明日香の声だった。

理解A 投稿日:2004/07/27(Tue) 23:35 No.100 
意外だった。別れてから、もちろん初めての電話だ。
「おう。どないしてん」
「あのね・・・あの・・・」
明日香は、涙声になっていた。
「明日香?」
「私、別れたら、次の日から、聡と付き合う前の、平凡で明るい毎日が過ごせると思ってたの」
俺は、押し黙って聞いていた。
「でも、そうじゃなくって・・・別れても、それはそれでつらいの」
そうなのか。
「元気に暮らせる、と思ってたんだけど、元気にならないの」
でも・・・俺は何て声をかければいいんだ?
「よりを戻したいのか?」
「わからない」
明日香の勝手なようにも聞こえるし、一度は付き合った仲だもんな、という気もする。
「俺も、明日香のこと、気にならないわけじゃないけど・・・」
「何?」
「俺、清水さんのことも・・・」
「私に何を言わせたいの?」
そりゃそうだ。何を言わせたいんだ、俺は?でも、気がついたら、本当の思いを吐き出してしまっていた。

休載のお知らせ 投稿日:2004/07/28(Wed) 19:11 No.101 
作者体調不良のため、しばらくの間休載させていただきます。
ご了承ください。
熱が下がり次第、連載を再開します。

のっぽ

りえ > お子さんの風邪がうつちゃった?学校もあるからゆっくり休めないと思うけど、お家で出来るだけ休んで、早く良くなってね〜(^^)再開は心待ちにしてるけど、体調第一でね♪ (7/28-23:18) No.102
のり > 大丈夫?^^;; 張り合い無いから、僕もやめようかなぁ・・・・(嘘) 早く、良くなってくださいな^^ この後の展開、気になってしようがないっ!(笑) (7/29-02:00) No.103

分岐点 投稿日:2004/08/02(Mon) 23:12 No.104 
さあ、どうしよう・・・
電話を切った後、俺はずっと考えていた。20歳そこそこの人間が言うのもおかしなセリフだが、これは俺にとって人生の分岐点のように思えた。だからこそ、一時の感情に流されず、しっかり気持ちを確かめようと思う。そのことで、誰にも後ろ指さされることなく、胸をはって生きていけるように、これまでも、これからも・・・
そして、受話器を取った。

「明日香ちゃん、そんな事言ったんだ・・・」
「そうやねん」
「どうして、そんな話を私にしようと思ったん?」
清水が聞いた。
「今、自分の気持ちを説明したくてな。そのためにはその話をせんと、できひんかったから」
「・・・うん」
「それに、そういうことがあったから、自分の気持ちを改めて考えられたし、伝えたくなったから」
「うん」
俺はひとつ深呼吸をした。そして、目線を上げた。

のっぽさん > ご心配おかけしました。今日2日(月)から復帰します。 (8/2-23:13) No.105

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