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登場人物相関図 投稿日:2004/05/13(Thu) 00:02 No.13 
連載10回突破記念 すべ電 相関図(図じゃないけど)

斎藤(精華大理学部 バドミントン部)
遠藤正二(東京の大学2回生 斎藤と同じ高校 高校では漫画部)
辰巳直子(精華大文学部 吹奏楽部 斎藤の高校の後輩 漫画部)

清水(精華大理学部 図々しい、短い髪、添削指導のバイト)
田中明日香(精華大文学部 笑うと目がなくなる、添削指導のバイト)
河原(精華大理学部 バドミントン部)

誤字脱字、ご意見等ありましたら、遠慮なく。

のっぽさん > 追伸 斎藤の下は聡
   清水の下は真知子 (5/13-23:24)
No.14

目撃 投稿日:2004/05/14(Fri) 00:08 No.15 
9月に入って、のんびりしていた。
秋のリーグ戦が9月の始めに終わったため、10月までクラブがオフになったためである。大学の前期試験もほとんどおわり、夏休みがもう一度来た感じである。大学から、電車に乗って大阪に向かう途中、奇妙な光景を見た。

あれ、あいつ・・・清水じゃねえのか?
どうしてこんなところで降りてるんだ?

各駅停車しかとまらない駅のホームに、清水が一人座っていた。バイト先は大阪だし、こんな所で降りて、ホームにいる理由が思い当たらない。

翌日、キャンパスで清水に会った。同じ学部である。同じ授業も多い。会うとは思っていた。
「昨日、通過駅でお前、見たで」
「えっ?!」
かなり驚いたようである。まさか見られてるとは思わなかったのだろう。それとも、見られたくなかったのだろうか。それにしても、こいつはわかりやすい。少なくとも、俺に対して、ごまかすことは出来ないだろう、と変な自信を持っていた。
「実はね・・・」

目撃A 投稿日:2004/05/15(Sat) 00:10 No.16 
「彼氏のところに行っててん」
「へぇ〜」
清水に彼氏がいるとは思わなかった。
「もの好きがおるもんや」
「ほっとけ!」笑いながら突っ込んできた。
「大学の人?」
「同じ大学じゃないけど」
「へぇ、そうなんや」
「どうやって知り合ったの?」
「合コンに誘われて、そこでおうてん」
いろんなことを清水は教えてくれた。彼は自分のことを真知子、って呼ぶとか、車が趣味で、ドライブに連れてってくれる、とか。一番意外だったのが、
「時々彼のマンションに料理を作りにいってるねん」
ということだった。
「気に入ってもらえる料理を作るのは難しいねんけどな・・・」
「気難しいねんなぁ、彼。作ってもらってるくせに」
清水が笑った。

思いがけず 投稿日:2004/05/16(Sun) 00:09 No.17 
直子ちゃんから電話がかかってきて、会うことになった。
吹奏楽部の定期コンサートのチケットを渡してくれるそうだ。前期テストが終了し、テスト休みに入って、俺がしばらく大学に行かないからだ。待ち合わせは、直子ちゃんの家の最寄の駅、俺の家からはそう遠くはない。電車で5駅も行けば、たどり着く。
「ああ、ありがとう」
「こっちこそ、見に来てもらって」
「楽器は何すんのん?」
「パーカッション」
「パーカッション?」
「要するに、叩く楽器全般みたいなもん」
「たいことか?」
「そうそう」
直子ちゃんの家まで送る、ということで、線路添いに歩いていた。高架なので、電車が通ってもそう会話の邪魔にならず、高架下は結構綺麗な店が並んでいた。でも、たわいもない話をしているうちに、家が目の前になった。
「もうちょっと話してもいい?」
「ええよぉ。じゃ、こっちに・・・」
向かった先は、小さい神社だった。
「中学の時、友達とよくここで話しててん」
高校の時からの直子ちゃんしか俺は知らない。高校時代に家に行く事なんかなかったから、知らないのも当然だ。直子ちゃんの中学時代を垣間見た気がした。

「あのさあ」
「ん?」
「どうして彼と別れたん?」
唐突なのは承知だが、聞かずにはいられなかった。

思いがけずA 投稿日:2004/05/17(Mon) 00:01 No.18 
「なんでやろう・・・」
笑ってしまった。間の抜けた答えといい、おっとりしたしゃべり方といい、いかにも直子ちゃんらしい。
「ただ、私がわるかってんやろなあ。よう怒らせてたし」
「え?何に怒ってたん?」
直子ちゃんは、思い出そうとしているのか、言いにくいのか、目線を下にやり、目をつむった。
「いや、いらんこと言うたなあ。言いたなかったら、言わんでええよ」
「そんなことない・・・・・私がね、男の子としゃべってたら、あの子、いやな顔してたし・・・・・気性の激しい子やったから・・・」
「そんなん・・・・・!」
小さい直子ちゃんの体が、ますます小さくなった。目が潤んでいる。
「直子ちゃんが悪くなんかないって。どんな友達とつきあおうが、直子ちゃんの自由やんか。それをとやかく言うなんて、そっちの方がおかしいわ」
「ありがとう・・・」
おれは177、直子ちゃんとは20センチ強の身長差がある。うつむいた直子ちゃんは、俺には身長差以上に、小さく、弱く見えた。
「俺なあ・・・・・」
思いがけず、言葉が口をついて出てきた。

思いがけずB 投稿日:2004/05/18(Tue) 00:01 No.19 
言うつもりはなかったのに。
直子ちゃんの小ささが、言わせている。そう感じた。
口にしてどうする?うまくいけばいいけど、うまくいかなかったら、今までの関係はどうなる?
一瞬のうちにいろんな考えが頭をよぎったが、意を決して、言った。

「直子ちゃんのこと、好きになったんやと思う・・・」

時間が止まった。ありとあらゆるものが、この一瞬、止まった。
「う、ううん、違うよ。私が今こんなんやから、かわいそうに思ってくれてるから、さいさん、優しいから・・・」
「いや、違うよ。だいぶ前から、そう思ってたんやと思う。」
日が暮れてきた。残暑が厳しい日々が続いていたのに、今日は少し風が冷たい。神社を取り囲むように生えている木が少し揺れた。
「ありがとう」
彼女は、ただ、そう言うだけだった。
「お願いがあるねんけど・・・」
「何?」

「抱きしめていい?」

思いがけずC 投稿日:2004/05/19(Wed) 00:00 No.20 
「えっ・・・・・・・」
直子ちゃんは困っているようだった。
「あかん?」
「だから、やっぱりさいさんは、勘違いしてるねんて。そんな、わたしなんか抱きしめてもうたら・・・」
「勘違いなんかしてへんけど、いややったら、無理にとは言えへんよ。でも・・・」

時間にして、3分くらいたっただろうか。恐ろしいほど長く感じた。お互い、沈黙を守っている。
やはり、言わない方がよかったのか・・・そんなことが、頭によぎった。どこを向いてていいのかわからず、上を向いたり、横を向いたりしていた。

直子ちゃんの顔を見る。うつむいている。そりゃそうだろうなぁ。いきなり、抱きしめたいって言われても、困るわなあ。
さい先輩は、聡、にはならないのか・・・。

そんなことを考えながら、横を向いた時、直子ちゃんが沈黙を破った。
「私・・・」

思いがけずD 投稿日:2004/05/20(Thu) 00:00 No.21 
「私・・・私がさいさんを抱きしめてあげるっ」
直子ちゃんが、背中にいきなり抱きついてきた。
時が止まった2回目の瞬間だった。ぬくもりを感じる余裕もなかった。ただ、直子ちゃんの重みと、抱きしめてもらっている現実に、静かに喜ぶのが精一杯だった。

直子ちゃんがまわした腕をほどいた。俺が振り返ると、直子ちゃんの笑顔がそこにあった。肩までのばした髪、くりっとした目、八重歯。その一つ一つが輝きを放ち、僕の眼に飛び込んでくる。

直子ちゃんの家の近くの幹線道路の交差点まで送って、別れた。この道沿いに戻れば、線路に当たる。道はわかっていたが、ゆっくりと歩いていた。まるで、何かを探すように。
やっと、背中にぬくもりを感じる余裕が生まれた。ああ、ここに、この背中に、直子ちゃんがいたんだな・・・探しているのは、冷めてゆくぬくもりなのかもしれない。

同志 投稿日:2004/05/21(Fri) 00:00 No.22 
「よかったやん」
清水はそう言ってチューハイを一口飲んだ。
「そうかなあ。まだ付き合ってる、とは言われへんし・・・」
「でも、まあ、脈はあるんちゃう?」
「そうやったらええけど」
僕はそう言って、生中を飲み干した。
大学の帰り、一緒の電車になった清水と大阪の駅を歩いていたら、歩道橋で居酒屋の割引券をもらった。オープンセールのようだ。サラリーマンが帰りに一杯、というのりで、軽く飲みに行ったわけだ。
「私もなあ・・・・・」
「どないしてん」
「食事や掃除、ちょっと疲れてきてるねん」
「しに行ってるんや」
「そう。合鍵持ってるし」
お互い、愚痴や不安を言う相手を探していたようだ。

「ほんま、ありがたみわかれっちゅうねん!」清水が吠える。
「そうそう!」俺が受ける。
もう、何を話してたか、お互いあまり覚えていない。
「お互い、がんばろうぜぃ」
「しやなぁ」
という誓いは覚えていた。

コンサート 投稿日:2004/05/22(Sat) 22:34 No.24 
直子ちゃんが所属する吹奏楽部のコンサートに行った。受付には、一般とOB・OGの区別があり、このコンサート自体がクラブの総会めいた雰囲気があった。そこかしこで、先輩後輩のあいさつがあった。
初めて入るホールだが、なかなかどうして、立派な会場だった。客の入りは半分ぐらいだろうか。一般の人も結構いそうだ。俺は河原を誘って、二人で来た。
コンサートが始まった。吹奏楽部だから、クラシックばかりかと思ったら、最近のはやりの曲やアニメの曲もあり、結構楽しめた。それでもやっぱり、まぶたが重くなってくる。直子ちゃんの担当のパーカッションは、他の楽器と違って、出番が少ない。たたいた、と思ったら、待機、の繰り返しである。
・・・・・・・

はっ!寝てた・・・・・
隣は・・・河原の奴、熟睡していた。

1時間半くらいたって、コンサートは無事終了した。ロビーに出て、直子ちゃんを待つことにした。
「おい」河原が呼んだ。
「なんだよ」
「あれ・・・清水じゃないの?」
えっ?来るなんて聞いてなかったぞ・・・

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