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すべては電話から
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6月の雨にD 投稿日:2004/06/11(Fri) 23:17 No.51 
「無理してたんやろうな・・・」
俺は、正直、やっと認めたか、と思った。
「無理してたら、続かんわなぁ」
「うん」
「どんな自分も、自分やんか。ありのまんま、出さな」
俺は、そう言った。

雨が小振りになった。もう30分は雨宿りをしていただろうか。
「やまない雨はないしね」
清水がそう言った。立ち直ったのだろうか。

その日以来、清水を見る目が変わった。清水が泣いたのを見たのが初めて、ということもある。しかし、清水は、彼と別れるまでは、迷うことなく、親友だったのだ。女で親友と感じることはそう多くない。彼氏がいたり、俺に他に好きな子がいたから、愛情でなく、友情と言えた。それがお互いなくなってしまった。言いかえれば、清水を初めて女として、恋愛対象になりうる女性として見ることになったのだ。

この日から、俺の苦悩が始まった。

存在 投稿日:2004/06/12(Sat) 10:10 No.52 
今年の梅雨は、よく雨が降る・・・
大学の講義も、どこか上の空である。
あの雨の日の出来事から、どうも清水の存在が気になって仕方がなかった。俺にとって、あいつはどういう存在なんだろう・・・

講義のノートを借りては、飯をおごってたっけ。同じ電車になって、一緒に大学に行ったり、帰りが一緒になった事もあったっけ。お互い、好きな相手のことで悩んでて、のみに行ったりして、意気投合したっけ。

たのしかったよなぁ

まるで、もういない人のような思い出し方をしていた。意識が変わるだけで、これだけ人の見方が変わるものなのか・・・

俺は思った。やばいなあ。ほんとにやばい。このままだと、親友を一人、失うかもしれない。

でも、来るべき日が来るのだろうな、という思いもあった。
さて、どうしよう・・・

存在A 投稿日:2004/06/13(Sun) 21:12 No.53 
「斎藤君とはどういう関係なの?」
田中明日香は清水真知子にそう尋ねた。
「つきあってるの?」
「いや、つきあってへんよ」
「ふうん。付き合えばいいのに」
「別れたばっかりやのに、すぐにそんな気にはなれないよ」
「そっかあ。好きじゃないの?」
「好き、というより、いい友人やね、友人」
「ほんまかな〜?」
「もう、からかわんといてよ!」
ふふふ、と明日香は笑った。いつもの目がなくなる笑顔だ。
そして、ふと別の種類の笑顔になった。その一瞬を真知子は見逃さなかった。
少し間をおいて、真知子は質問した。
「もしかして、斉藤君の事、好きなんじゃないの?」
「えっ!?あっ、いや、その・・・そんなんじゃないけど」
そういうことか。真知子はさとった。
「あいつ、いい奴やで。おもろいし、優しいとこあるし」
「そやろ!おもろいやろ。それに優しいとこあるし、クラブしてるところも一生懸命やし」
真知子は笑ってしまった。

存在B 投稿日:2004/06/14(Mon) 23:54 No.54 
金曜の2コマ目の授業が始まった。楽しみにしている心理学の授業だ。
くわしくは、一般心理学、と呼ばれる、心理学の入門のような授業で、テレビでもてはやされている心理ゲームの基礎知識みたいなのも少し含まれていた。でも、フロイトやユングなどの名前が出てくると、専門的だなぁ、と理系の人間は思ってしまう。
授業の内容も楽しみだが、田中明日香と隣で、時折話をしたりするのも楽しい。俺が言う話にすぐ笑うし、雰囲気が落ちついている。

授業が終わって、どちらから誘うということもなく、なんとなく2人で学食に入った。昼という事もあって、とても込んでいた。
「どうする?」田中さんにそう聞かれた。
「困ったなあ。今日はえらい混んどるなあ」
「じゃ、食べに出よか?」
「そやな」
自然な流れで、大学の外に出た。大学の周辺は、いわゆる学生街ではない。住宅地の真ん中に大学がある格好なので、幹線道路に出ると、道沿いにファミレスがある、といった具合である。学食に飽きた学生は、この辺りの日替わりランチを食べるのである。
「どうせだから、ちょっと違うところにいこっか?」
田中さんは微笑んでそう言った。
「ええなあ」
食べることが好きな俺は、喜んでそう答えた。

存在C 投稿日:2004/06/15(Tue) 22:50 No.55 
大学を出て5分、幹線道路沿いの和風ファミレスに着いた。
なるほど、ここはあまり人がこないはずだ・・・俺はそう思った。なぜなら、駅とは反対方向だからである。一見値段が高そうに見えるのも理由だろう。
店に入って、日替わりを注文した。680円と、思ったより安く、穴場感があった。
「よう知ってたなあ、こんなとこ」
「そやろ、この辺ぶらぶらしてたら、偶然見つけてん」
「へぇ・・・」
その後、食べる所の話で盛り上がった。同じ趣味で気が合うなぁと思った。
この日の日替わりは、フライ物2種、サラダ、漬物、ご飯、味噌汁、以上だった。ボリュームも十分で、満足した。
「ありがとう、ここ教えてくれて。美味しいわ。それにそこそこの値段やし」
「そやろ。よかった、喜んでくれて」
田中さんはニッコリ笑った。目がなくなる、俺の好みの笑顔だ。
「また来よな」
「おう」
俺は何の気なしに答えた。田中さんの頬がほんの少し赤くなったような気がした。気のせいだろうか?

目次 投稿日:2004/06/15(Tue) 23:24 No.56 
連載40回突破を記念して、これまでの題名をおさらいしてみたいと思います。
目次として見ると、これまでのあらすじが甦って来るかも知れません。

はじまりの電話         コンサート 〜B  
新しい道で 〜A        それぞれの秋 
思い出             告白 〜B
クラブ             1年目の冬 
入部、そして          年が明けて 〜A
それぞれの方向 〜A      時がたてば 〜A
1年目の夏 〜A        2度目の春 〜A
目撃 〜A           意外な理由 〜A
思いがけず 〜D        6月の雨に 〜D
同志              存在 〜C

実はこの小説、すでに1年2ヶ月経った設定になってます。
よければ、また感想等お聞かせいただければ幸いです。

のり > そっかぁー、もう1年2ヶ月も経ったのね? 上の「リレー小説」まだ、たったの二日(爆)それも、時間にすると、24時間経ってない(汗)今後の展開に、期待してますよ^^巨匠(^^)/  あ、感想になってない・・・(笑) (6/16-01:02) No.57

2年目の夏 投稿日:2004/06/16(Wed) 23:25 No.58 
梅雨も明けて、本格的な夏が始まった。大学2回の夏である。
でも、去年と比べて、どこがどう変わったか、と言われても困るくらい変化がなかった。相変わらずクラブに打ち込み、オフの日にはバイトにいそしみ、の日々である。たった一つ、違う事と言えば・・・あいつ、どうしてるのかな、と考える相手が変わった。去年は直子ちゃんだった。今年は・・・清水だった。
正直、好きなのかどうか、わからない。ただ、それまで恋愛対象として見てなかったやつを、恋愛対象としてみた時、こんなに気持ちが揺らぐものなのか、ということを初めて感じた。

いつものようにクラブに行くために家で用意をしていた時、電話がなった。
「おはよう。元気してた?」
清水からだった。
「今日、大阪まで出る用事があるから、飲みに行かない?」
という誘いだった。
「おう、ええよ。クラブの後、4時半頃には梅田に着くと思う」
「OK。じゃ、ビッグマン前で」
「わかった」
と言って電話を切った。どういう夕飯になるのか・・・

思いがけず、再び 投稿日:2004/06/17(Thu) 23:01 No.59 
ビッグマン前には、同じような待ち合わせの人が山ほどいて、待ち合わせ場所として適していない事を痛感した。大阪で待ち合わせをすることが少ない俺にとって、新しい発見だった。
「お〜い、こっち、こっち!」
振り向くと、ビッグマンの大画面の上、吹き抜けの2階に清水がいた。人ごみの中でも、知ってる人間の声は聞き分けるものだ。
階段を下りてきた清水は、
「ビッグマンは、上の方が人が少ないから、待ち合わせにはいいよ」
と教えてくれた。なるほどなあ。
そこから、飲みに行く店に向かった。梅田かと思ったら、地下鉄に乗って、難波に移動をはじめた。清水の知ってる店があるらしい。

地下鉄の出口を上がって、地上に出た。道頓堀川のほとりに、「いろはにほへと」という居酒屋があった。面白い名前だ。店内は結構広く、落ち着いた雰囲気なので、俺はとても気にいった。清水がつれてこようとする店の事、安くておいしいのは間違いないだろう。
生中が2杯届けられた。さっそく2人で
「かんぱ〜い!」
となった。

思いがけず、再びA 投稿日:2004/06/18(Fri) 00:00 No.60 
二人で飲みに行くのも、もう3回目、4回目だろうか。今回も、同じようにうまいもんを飲み食いしながら、取り留めのない話をするだけである。

2時間がたち、2人ともずいぶん酔いが回ってきた。2人とも、酔っ払うと楽しくなると言うか、笑い上戸というか、声が大きくなって、やがて眠くなる、そんな酒だった。

店を出て、酔い覚ましに道頓堀を歩いていた。

ふと、会話が途切れた。
清水の表情が変わった。

「・・・男なんて・・・ええわ、当分」
「なんでまた?」
「あの子で懲りた」
「そうなん?」
「初めて付き合った男の人やったけど、よく分かった。所詮、男なんて・・・」
「違うよ」
驚いた表情で清水が俺を見た。

思いがけず、再びB 投稿日:2004/06/19(Sat) 23:08 No.61 
「少なくとも、俺はあいつとは違う」
「斎藤君・・・」
酔ってることを言い訳にしたくはないが、やはり酔っているのだろう。感情が抑えられなくなってきている。興奮しているのとは違う。冷静な自分もいる。ああ、もう言わないと気がすまないんだろうなぁ、と自分を分析していた。
「お前が別れて、フリーになって、急に恋愛対象として自分をみるようになってしもてん」
「・・・そうなんや」
「それまでは、お互いに相手がおったから、胸をはってただの友人や、って言えたけど、今おれへんやん、お互い」
「まあなあ」
「で、今、そんな話してるやろ。男は、そんな奴ばっかりやないって、って言いたなるやん」
清水の表情が引き締まった。
「俺やったら、あかんか?」
清水は、驚かなかった。俺も、驚かなかった。こんな日がきっと来るだろうと、思っていた。そして、それが今日かもしれない、という思いもあった。
清水がうつむいた。
「抱きしめてええか?」
意を決したように清水が顔を上げた。

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