004210
すべては電話から
[投稿小説に戻る] [ワード検索] [作者用]

時がたてば 投稿日:2004/06/01(Tue) 00:00 No.41 
まわりは後期試験にむけて慌しい雰囲気である。1回生はどうということはないが、4回生の、しかも単位が取れるか取れないかで、卒業か留年かが決まる人にとっては、切羽詰った問題である。
そんな中、あまり周りを見てなかったのだろう。俺は曲がり角で人とぶつかりそうになった。
「おっと・・・」
「あ・・・」
先に気付いたのは向こうの方だった。こっちは、その聞き覚えのある声で気付いた。直子ちゃんだった。
「ああ・・・」間抜けな声をあげてしまった。
「元気?」
「まあなぁ。そっちは?」
「うん、元気」
直子ちゃんと話すのは何ヶ月ぶりだろう。学部が違うし、会おうと思わないと、案外出会えないものだ。
「久しぶりに、茶でも飲むか?」
「うん、飲む〜」直子ちゃんらしい、のんびりした返事。
試験前だし、自販の紙コップのコーヒーを買って、学食のいすに座った。

時がたてばA 投稿日:2004/06/02(Wed) 00:00 No.42 
遠藤の告白以来、直子ちゃんの顔を見るのも辛かったのに、あいさつをし、あまつさえ自分から誘うなんて、時は流れたんやなぁ、とつくづく思った。
「結局、遠藤と付き合うことにしたんやなぁ」
「うん・・・」
直子ちゃんは、言葉を選んでるようだった。俺に気をつかっているのか、うまく表現できないのか・・・
「うまく言われへんねんけど・・・えん先輩だったんよね・・・」
「うん、わかるような気がするよ」
「結局、こうなると思わなかった?」
正直、思った。高校の時から、なんとなく、二人はこうなるようになっていたんだと思う。
他人にうまく説明は出来ない。だが、そういうカップルって、あるんだと思う。
「そうやな・・・」
紙コップのコーヒーをすすった。
「きっと、さい先輩にも、いてるよ。そんな人が」
直子ちゃんが言うと、嫌味にならない。ほんとにそう思ってくれている。そら、こいつのこと、好きになるわなあ、と思った。そして、ふられても、元の先輩後輩に戻れたことに、心底ホッとしていた。
「ほんとに、おるのかねぇ・・・」
「おるよぉ」
季節は、もうすぐ春を迎えようとしていた。

2度目の春 投稿日:2004/06/03(Thu) 00:09 No.43 
2回生になった。去年の今頃は、直子ちゃんと同じ大学になった、ということで、大学生活の不安が少し取り除かれた、みたいなことを考えていたっけ。
もう、あれから1年たったのか・・・

後輩が入ってくる。クラブへの勧誘活動を本格的に始めないといけない。体育会の人気は薄い。人気スポーツはともかく、バドミントンなんかは、サークルなど、遊びの延長にとる人間が多く、なんとかその気にさせて、入部させねばならぬ。

そして、新たな時間割を組む時期でもある。今年はどんな授業を取ろうか・・・清水のノートのおかげで、履修単位の方は、まずまずたくさん取れた。ひたすら空き時間を作るのも手だが、以前から興味を持っていた心理学の授業でもとろうか・・・そんなことを考えていた。

卒業に関係のない単位なので、理学部の人間はほとんどいない。教育学部の人間も、選択授業らしく、教室の中で10人ほどがまばらに座ってるだけであった。
講師が教室に入ってきた。指定席にするらしい。学籍番号と名前を読み上げて、席を指定し始めた。

名前を呼ばれたので、立ち上がり、指定された席に座った。次に呼ばれた人が、俺の隣に座った。記憶に残らなかったので、ありきたりな名前だったのだろう。あれ、なんて名前だっけな・・・と思っていると、隣の人が席にたどりついて、座った。
「おはよう」
「あっ」
文学部の田中さんだった。6桁の番号と、田中という名前じゃ、印象に残らなかったのも無理はない。なんだ、知ってる人だった・・・

2度目の春A 投稿日:2004/06/04(Fri) 00:00 No.44 
「おはよう。どうしてこの授業に?」
「う〜んとね、趣味かな」
清水の横によくいてる、数少ない女性の一人だ。笑うと目がなくなるその顔から、おだやかな、それでいて知的な、色っぽい声が発せられた。
「そっちは?」
「俺も、興味があって」
「教育学部の女の子に?」
「清水、いったい俺のこと、どんな風に話をしてんねん!」
お互い、声を押し殺して笑った。授業中に大声で笑うわけにもいかない。

気がつくと、教室の3分の2くらい埋まった。人数にして、30人ってところか。意外と教育学部以外の学生も多いんだな、と思った。やや女性のほうが多いか。でも、知ってる人は、田中さんだけだった。

でも、金曜の2コマ目が、楽しみな授業のひとつになった。

意外な理由 投稿日:2004/06/05(Sat) 19:01 No.45 
クラブの後輩もなんとか数名入部して、先輩としての責任をとりあえず果たしたというのに、学部も同じ、クラブも同じバドミントンの河原に元気がない。
「なんでやろうなあ。五月病でもあるまいし」
と同じ学部で、バスケ部の前田と話をしていたところだった。

「別れてん」
河原からの報告だった。前田と二人して、「えぇ〜?!」声をあわせて驚いた。
「お前、付き合って、半年やんか」
「なんでやねん」
「実はな・・・」遠い目をする河原。うなずく俺と前田。
「俺が若かってんな・・・」
前田と顔を見合わせて、首をひねった。どういう意味なんだ・・・
「『あんた、体が目当てなんか!』って、怒られてなあ。『もう信じられへん!』って、泣かれてもうてな・・・」
一瞬の沈黙の後、前田が言った。
「お前、最低やなあ」
ふきだしそうになっていた。俺も笑いがこらえきれなくてっている。
「やろ?やろ?俺もそう思うわ・・・」
「お前が言うな!」
俺が突っ込むと、3人とも苦笑いをしてしまった。

意外な理由A 投稿日:2004/06/06(Sun) 00:15 No.46 
「なんでまた、そんなことに・・・」
俺がそう聞いた。
「だってな、好きな女の子と付き合ってな、Hできたらな、うれしいやん。だから、会うたんびにしてて・・・」
「でもな、そらあかんやろ〜」
前田が言った。俺もそう思った。
「いくら気持ち良くっても」
俺はこけそうになった。ストレートやがな。ひねりなさい・・・
「まあな。猿になってたしな」
深刻な話のはずなのだが、年頃の男ばかり3人そろうと、こんな会話になってしまうのかもしれない。
「お前らも、気ぃつけろよぉ」
女を知った先輩からのありがたいお言葉である。

河原の気持ちは良くわかる。俺が同じ立場なら・・・同じようになってたかもしれない。逆に、結婚前にH、という罪悪感から、手を出さない、出せない可能性もある。付き合った女性のHに対する価値観も、大きく影響する。
そういや、直子ちゃんとH、なんて、想像すらしたことなかったなあ。そりゃ、そうだよな。ドラマじゃないんだから。いい年した男女が付き合えば、当然そういう問題も出てくるよなぁ。
付き合う、ということを改めて考えた1日だった。

6月の雨に 投稿日:2004/06/07(Mon) 00:00 No.47 
2回生になって、2ヶ月が過ぎた。クラブは、後輩を迎えて、活気があった。先輩として、しめしのつかないことでは困るので、1回のときとはまた違う緊張感があった。河原は、元カノの事もあって、クラブ内での口数は減り、よりシャトルに集中している感じだ。別れた当初は、それが痛々しく感じたが、ここに来て、そういう雰囲気もなくなってきた。

時は、確実に過ぎているのである。

俺も、直子ちゃんとの恋に破れて半年以上もたち、そろそろ別の人を好きになってもいい頃なのに、そうならない。引きずっているのではなく、相手がいないのだ。

趣味で取っている心理学の講義も6回を数え、毎週横に座る田中さんと話をする中で、互いの距離も縮まり、ずいぶんいろんなことがわかってきた。大阪市内に住んでいることや、ひとりっ子であること、村上春樹がすきなことや、車が好きなこと・・・などなど、今まで自分の周りにいた女の子とは違った、大人で知的な、それでいてどこか色っぽい感じが新鮮だった。
向こうは向こうで、こっちのあほなしゃべりにけらけらけら、と笑うばかりだった。悪い印象を持たれている気はしなかった。

俺の相手って、いるんだろうか・・・6月のしとしとと振る雨を見つめながら、そう問い続けていた。

6月の雨にA 投稿日:2004/06/08(Tue) 00:15 No.48 
今日はまだ雨がふっていない。天気予報は、昼から大雨だ。
今日はこのあと、どうしようか・・・クラブは休みだし、他のやつはクラブかバイトで、一人になってしまったなあ、と思いながら、窓の外をを眺めていた。

掲示板を見ると、昼からの授業が休講。よし、難波に寄り道して帰ろう。丸福の珈琲を久々に飲もう・・・。

大阪から、地下鉄御堂筋線に乗って、4駅。約10分の道のり。地上に上がると、雨が降っていた。傘を差し、道頓堀に出た。東に向かって歩くと、左手に引っかけ橋が見える。右手には、商店街のアーケードがある。ふと見ると、ずぶぬれになった女性がいた。雨やどりをしているようだ。

えっ・・・まさか・・・

目をこらして、よく見てみた。

清水だった。それがわかると、急いでアーケードの方に駆け寄った。
「おい」
声をかけた。清水が顔を上げた。頬に、雨粒とは違うしずくが流れていた。

6月の雨にB 投稿日:2004/06/09(Wed) 20:39 No.49 
「お前・・・どないしてん・・・」
「・・・ふられてん・・・・・」
別れた、ではない。ふられた、という表現を清水は使った。
「そうか・・・で、傘は?」
「あの子の家においたまま、飛び出してきたから、ないねん」
「コンビニで買えばいいのに」
「うん、そやねんけど・・・」
ドラマでは、ありがちな光景だが、実際に目の当たりにすると、異様な光景だった。
「とにかく、ここで待っときや。タオルか何か、買うてくるわ」
「・・・ありがとう」
繁華街で、コンビニも多い。近くのローソンに駆け込み、タオルとあったかい飲み物を買った。

清水はそのタオルで濡れた髪や顔をふき、あったかいレモンティーを飲んだ。
「ふう・・・」
俺はその横で、あったかいコーヒーを飲んだ。レモンティーを飲んでいる清水の横顔を見ながら、考えた。
女の子にとったら、ずぶぬれになるというのは、いったいどういうことなんだろう。服が濡れて透けて見えるのも嫌だろうし、化粧だって落ちてしまう。今、そんなことがどうでもいいくらいな心境なんだろう。
「あのね・・・」
清水が口を開いた。

6月の雨にC 投稿日:2004/06/10(Thu) 21:09 No.50 
「最近バイトで忙しかったし、風邪ひいたりで、1週間ぐらいあの子のところへ行ってなかったのね」
「うん」
「あの子も、深夜バイトで不規則な生活を送ってたらしいの」
「うん」
「そしたら、台所の三角コーナーのところにカビが生えてたらしくて」
「それが別れた原因?!」
「・・・きっかけにはなったけど・・・」
けど・・・か。いろいろあったからな、清水んとこも。それにしても、この男の考え方が、俺にはわからない。
「自分の台所やん。お前のせいちゃうやん」
「でも、料理作りに行ってたところもあるし・・・」
「でも、嫁さんちゃうやん、あんた」
「そやねんけど・・・ただ・・・」
「ただ?」
「一生もんやないって感覚、間違ってなかった。いずれこうなる日が来ると思ってた。」
そうだろうな。俺もそう思った。


[直接移動] [1] [2] [3] [4] [5] [6] [7] [8] [9] [10] [11]


- PetitBoard -