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すべては電話から
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掛け違いD 投稿日:2004/07/10(Sat) 23:51 No.83 
「彼女から、バレンタイン、もうたん?」
「もらったよ」
「じゃ、大丈夫やろ」
「何や、それは」
前田なりの気の使いようなのだろう。不安にさせた分、安心させる意味で、聞いたのだろう。
「前田の方こそ、ようけもうたやろ」
「チョコレートか?義理ばっかりや」
「ええやん。もてるねんし」
前田は、バスケットボール部だが、背は俺より低い。170ぐらいだ。でも、童顔で、可愛い感じの彼は、俺らの中で一番もてる。
「でも、本命からもらえるほうがええで」
確かに、そうかもしれない。
「ええ奴、おらんのか?」
「なかなかなあ」
「どんな奴がええねん?」
「そやなあ・・・一緒におって、楽なやつかなあ」
「清水なんか、どや?」
「確かに楽は楽やねんけどな」
やんわりと否定されてしまった。


掛け違いE 投稿日:2004/07/11(Sun) 23:09 No.84 
「お願いがあるねんけど」
俺は電話口でそう言った。
「何?」
電話の相手は清水さんだ。
「ホワイトデーに、彼女に何を送ったらいいか、教えて」
「え?!」
清水さんが間の抜けた声を出した。
「何で私に聞くん?本人に聞いたらええやん」
「でも、なんか、そんなん聞いたら、怒りそうやろ、あいつ」
「そうかなあ?」
「『そんなん、自分で考えるもんやんか』って言いそうやん」
「まあ、女の子は聞かんでも欲しいもんわかってよ!みたいなとこあるし」
「そやろ」
「じゃ、チョコレートにスカーフなんか、どう?」
「ありがとう。そうしとくわ」
このアドバイスは、ほんとに助かった。
「自分も、そういうとこある?」
「私?ないこともないけど、言わな、相手に伝わらない、って思ってるし、むしろ、聞いてくれる方が欲しいものを確実にもらえるから、うれしい」
「そうやろ?その方がええと俺も思うねん、ほんまは」
「うんうん」
似てるのかもしれないな、清水と俺。この時、それを強く感じた。

波乱の春 投稿日:2004/07/12(Mon) 23:53 No.85 
「えっ、どういうこと?」
彼女の口調が明らかに変わったのがわかった。
「だから、合宿の日程が変わって、その日があかんようになってん」
「そ、そんな」
がっかりした、という口調ではない。納得がいかない、という口調だった。
「だって、あなたが日程決めるんでしょ?」
「そうや」
精華大のバドミントン部は、新3回生が幹部となる。俺は、この春から、主務、という役職になった。マネージャーのような仕事だが、普通、バドミントン部にマネージャーなんかいない。代々、部員の中から選ぶのである。
「わかってて、どうしてその日を避けてくれなかったの?」
「仕方ないだろ。いつもの合宿所が改装で使えないから、別のところにあたったんだよ。そしたら、その期間しか取れなかったから」
「もういいわよ!」
ブツッ!と電話が切られた。
来月に彼女の誕生日が来るので、日帰りで遠出しようと計画を立てていたところだった。

部屋のカレンダーに目をやった。もうすぐ3月か・・・。
ホワイトデーで、巻き返しをはかろう。お返しのチョコレートとスカーフ、買いに行かないとな・・・。

波乱の春A 投稿日:2004/07/13(Tue) 22:42 No.86 
あれから2週間、連絡をとっていない。相変わらず金曜の2コマ目には顔を合わすのだが、お互い黙ったまま、授業が終わってもそのまま別行動をとっていた。

「えらくこじれたね」
清水さんが心配そうに言った。
「まあな」
偶然、朝の電車が一緒になった。
「謝るべきやと思う?」
「まあ、彼女も楽しみにしてたわけやし、謝った方がいいと思うけど・・・」
「けど?」
「私は、しゃあないやん、って思うけどなあ。いくら主務とはいえ、自分の都合だけでクラブの日程決められへんやん」
よかった。わかってもらえただけで、救われた。
「そや、ホワイトデーのプレゼント買うの、付き合ってくれへん?」
「え?私?そんなん、女の子の好み、ようわからんで」
「お前、女ちゃうんか!」
二人とも、大笑いをした。

波乱の春B 投稿日:2004/07/14(Wed) 23:03 No.87 
「スカーフ、ありがとう」
彼女から、お礼の電話がかかってきた。家でプレゼントを開けたのだろう。
「自分で選んでくれたの?」
「いや」
「違うの?」
「女友達に頼んで、自分が好きそうなやつを見てもらってん。こんなん買うの初めてやし、何がええのかよくわからんかったから」
「ふうん」
「何?」
「いや、自分でよう決めんかったんやなあって」
この言い方に、ひっかかった。
「ん?」
「だって、周りに合わせてばっかりやん。お正月も親に合わせて家におるし、合宿の日程かって、自分の都合を無視したし、今度かって自分一人ではよう買わんかったんやろ?」
「何やねん、その言い方は!」
電話口で怒鳴るなんて事、初めてかもしれない。
「自分にあらかじめ聞くんじゃなくて、突然好みのものをもらった方が嬉しいやろと思って人がしてることをなあ!」
「そんなん言い訳やん」
「わかった。もうええ。もう会わん!」
ブツッ!と電話を切った。それも初めてのことだろう。

3度目の春 投稿日:2004/07/15(Thu) 22:45 No.88 
「それから会ってないの?」
「うん」
3回生になって、初めての授業で清水に会った。なんだ、あいつ話してなかったのか・・・。
ふと見ると、清水が泣きそうな顔になっていた。
「どしたん?」
「いや・・・なんかさ・・・」
「別に、気にせんでええよ。ただ、会う気はないから」
「えらく怒ってんねんなあ。よっぽどやねんな」
「まあな」
3週間経っているので、落ちついてはいるが、まあ普通の状態でないのは確かだろう。

あいかわらず体育会の面々とつるんで学食を出たところの階段で座っていたら、
「あれ、田中さんちゃうん?」
河原がそう言ったので、目線を上げると、向こうの方から女の子2人組で歩いてくるのが見えた。

明日香だ・・・遠いけど、間違いない。

「おれ、向こう行くわ」
「別にそこまでせんでも」
前田がそう言うのも聞かず、俺はその場を離れた。

3度目の春 投稿日:2004/07/16(Fri) 22:49 No.89 
「やっぱりあの後来たんや」
「そうや」
清水が答えた。
「ふうん」
「驚いてたよ。いつものメンバーの中で、斎藤君だけがいなかったから」
「おらんようになったん、わかったんかな」
「そらわかったんちゃう?」
「話はせんかったん?」
「してないよ」
「そうか」
俺は電話を切った。すると、またすぐに電話がかかってきた。明日香からだった。どうしようか、と一瞬思ったが、電話を取った。
「もしもし」
「あ、もしもし、明日香ですけど・・・」
「うん」
「あの・・・」
言いにくそうにしていたが、こちらは黙って待っていた。明日香が続きを言った。

3度目の春B 投稿日:2004/07/17(Sat) 10:02 No.90 
「ごめんね、ホワイトデーの事」
「ああ」
「言い過ぎたと思ってる」
「うん」
しばらくの沈黙。
「こたえた、学食での事」
「分かったんか」
「分かったよ。聡だけいなくなったの、遠くでも分かったから」
「そうか」
「それじゃあね」
彼女は電話を切った。話がはずむ訳もない。

しばらく考えた・・・めったに怒らない方だが、怒るとこんなにも怒りが込み上げてくるものなのか、と思った。もちろん、むこうは謝ったわけだし、許しているのだが、そう簡単に感情が戻ってこない。好きか?と言われれば、好きと答えるだろうけど・・・。

別れる気はない。でも、以前のような仲に戻る自信は無かった。

動揺 投稿日:2004/07/18(Sun) 00:45 No.91 
仲直りをしてから、1ヶ月が過ぎようとしていた。3回生になって、彼女と同じ授業がなくなり、待ち合わせをしなければ、顔を合わさなくなっていた。

「一緒に帰ろうか」
キャンパスで会った彼女に俺から声をかけた。
「うん」
電車に二人乗った。3回生になって、お互いの新しい授業や専門の授業についての話などをした。
梅田で降り、すぐに地下鉄に乗るんじゃなく、すこしぶらぶら歩くことにした。喫茶店でお茶をして、ロフトでウインドウショッピングをした。

その帰り道、細い路地で立ち止まった。ふと人気がなくなり、二人きりになった。夕日に赤く染まった彼女の顔・・・あの学祭の時の顔だ。
彼女の両肩に手を乗せ、引き寄せた。お互いの顔が近づく。

その瞬間、彼女の体が硬直し、顔をそむけられた。
俺も思わず、向こうを向いた。

拒否されてしまった。初めてのことだった。

動揺A 投稿日:2004/07/19(Mon) 22:15 No.92 
「そうなんだ・・・」
電話口から、清水の声が静かに聞こえてきた。
「うん」
俺が力なく答えた。
「何かなあ、そうじゃないねん、って言いたいねんけど、ひとつひとつ、ちゃんとこう、うまく言われへんけど」
「ううん、わかるよ」
清水は優しくそう言ってくれた。
「それが斎藤君やん。明日香のためにと思ってやったり、家族やクラブや、いろんな人のことを考えてたり」
「ありがとう。ようわかってくれてんなあ」
「まあね」
「でも、もう無理かもしれん。あいつとやっていくの」
一瞬の沈黙があった。
「どうしたん?」
しびれを切らせた俺が沈黙を破った。

「きっとね、私の方が、斎藤君のこと、よう分かってるんやと思う」
「・・・」
「別れても、私がついてるからね」

えっ・・・どういう意味・・・
「・・・ありがとう」
礼の言葉が精一杯だった。電話を切り、しばらく清水の言葉の意味を考えていた。

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