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思いがけず、再びC 投稿日:2004/06/20(Sun) 00:12 No.62 
心斎橋筋商店街のアーケードが切れたところに、橋がかかっている。6月の事件を目撃した場所だ。そこにかかっている橋が、通称引っかけ橋と言って、阪神タイガースが優勝した時に飛び込んだ人がいた場所で有名だ。そこを流れる道頓堀川を二人眺めていた。

「抱きしめてええか?」
俺の気持ちに対して、清水はこう答えた。
「あかんなぁ〜」
清水らしい言い方に、苦笑してしまった。
「1年間付き合った人やもん。1年間かけないと、忘れられへん」
「そうか〜、残念やなぁ〜」

きっと、俺を友人として失わないようにするための答えが、「あかんなぁ〜」だったのだろう。そう考えたら、2人に告白して、2人ともに振られたものの、友人として、今後も付き合っていける、というのは運がいいのかもしれない。

暑かった季節も、俺の頭を冷やすためかのように、涼しくなってきた。秋の訪れである。

文化祭 投稿日:2004/06/21(Mon) 22:04 No.63 
10月に入り、大学の雰囲気が慌しくなってきた。後期の授業が始まったせいもあるが、文化祭の準備に入るからである。クラブ、クラス、いろんな団体が模擬店を出す。我がバトミントン部も例外ではない。どこのクラブもたいがいそうなのだが、部費を稼ぎ出す貴重な機会なのだ。クラスと違って、OB・OGに声をかけ、友人に声をかけ、客引きをする。
 バドミントン部は、1・2回生だけで店を出す。3回生からは高みの見物である。とはいっても、手伝ってくれる先輩も多く、誰が店を出してるのか、分からない状況になる。
 それでも、2回生にとったら、最後の出店になる。俺は気合を入れて、客を集めた。出来る限りの友人、顔見知りに声をかけておいた。さあ、だれが来てくれるのか・・・。
 前田と清水、その他多くの理学部の友人が来てくれた。バイトと違って、その場で気がねなくしゃべる事が出来る。
 それじゃ、他の店に行くわ、となった時、清水が俺に近づいて、言った。
「そういえば、田中さん、来るって。声かけてたんでしょ?」
「おお、そうや」
「あの子、そのために一人で来るんちゃうかなあ。来たら、ちょっと一緒にどっか連れてったりや」
え、あ、いや、と口ごもるうちに、清水はどこかへ行ってしまった。もし、ほんとにそうなら、一緒に模擬店をまわってもいいのだが・・・

文化祭A 投稿日:2004/06/22(Tue) 00:11 No.64 
日がだいぶ暮れてきて、街灯に光がついた。もうそろそろ夕食時、模擬店もつらいかな?と思っていた。正直、模擬店だけで夕食を済まそうとする人はそんなに多くない、と思っていたからだ。
そんな事を考えていたら、「一つ下さい」という声がしたので、顔を上げた。
「あ、田中さん!」
「こんばんは。声かけてくれたから・・・」
「ありがとう」
出来たてのたこ焼きを渡すと、ニッコリ笑って
「いくら?」と聞いてきた。一瞬の間があった後、
「いや、ええわ。おごるわ。せっかく来てくれたんやし」
「でも、悪いやん、そんなん」
「ええねん。一人ちゃうの?」
「うん。私、クラブもしてないし、文化祭来るん、初めてやから」
「じゃ、まわってみる?まだ全部見てないやろ?」
「ええの?」
「あ、でも、店の方・・・」
そうだった。模擬店の留守番の段取りをつけていなかったことに気付いた。
すると、
「かまへんで。行ってこいや」
河原がそう言ってくれた。
「ありがとう。じゃ、ちょっと行ってくるわ」
2人で模擬店の人ごみの中を歩き出した。

文化祭B 投稿日:2004/06/23(Wed) 00:01 No.65 
金曜の授業の後で昼飯を2人で食べたことは何回かあるが、イベントに2人で歩き回るのは初めてだった。
模擬店のほとんどが食べ物だったので、何を食べるか迷った。2人で「どれにする?」「あれもええなあ」みたいな会話をしていた。食べ物以外の店では、落ち研がじゃんけんで勝てば景品みたいなゲームやら、天体観測部がプラネタリウムを教室に作ってたりして、面白かった。
「ほんとにいろんなのがあるんやね〜」
田中さんが無邪気に笑った。その横顔を見た時、ドキッとした。笑顔ぐらい、何度でも見ているのだが、昼間教室で見る笑顔とは違う。日が沈もうとして、赤い光が消えていく空に街灯の光が重なり田中さんの顔を照らしていた。少し紅顔ぎみの田中さんを見て、ほんとに可愛い、と思った。そして、今度はこっちも顔が少し赤くなった。・・・まるで、デートしてるみたいやん・・・

バドミントンの店に戻ると、店を片付け始めていた。
「えっ?もうそんな時間?悪かったなぁ、えらい遅くまで行ってて・・・」
「ちゃうちゃう、品切れになったんや。材料買って仕込む時間もなさそうやし」
「あ、そういうことか」
急いで店を片付け始めた。田中さんも、
「何か手伝える?」
と声をかけてくれた。

文化祭C 投稿日:2004/06/24(Thu) 00:08 No.66 
「わかった」
と荷物を部室に運んでくれた。女性だし、そんなに重い荷物は頼めないけど、すでに片付け始めていた事もあって、2・3回の往復で終わった。

「河原先輩、斎藤先輩の隣の女の人、誰なんですか?」
「連れかなあ?彼女かも知れんなぁ」
「へぇ〜。彼女とちゃいますのん?」
「何を言うてるねん!」
俺が割って入った。
「聞こえてたんか」
河原が言った。
「聞こえてるわい。そんなんちゃうって」
「でも、まんざらでもないんちゃうん?」
「からかうなよぅ」
田中さんが笑っていた。

えっ?笑っている・・・?嫌じゃないのかな・・・

片付けが終わり、解散となった。俺は、田中さんと2人で夕飯を食べに行った。

2度あることは?3度目の? 投稿日:2004/06/25(Fri) 00:00 No.67 
文化祭以降、毎週金曜日は必ず田中さんと昼飯を食べるようになった。金曜日は元々クラブがオフなことも幸いして、午後からも一緒に過ごす事が普通になった。

文化祭の日、模擬店の中を一緒に歩いた。夕日の赤に街灯の光が重なり田中さんの白い頬を赤く照らしていた。あの時の顔が忘れられない。ほんとに可愛い、と思った。

きっと、その時が田中さんを好きになった瞬間なんだろう。清水に振られて3ヶ月、失恋を忘れるには次の恋、なのかも知れない。いや、その時、田中さん以外の存在を忘れていた。

でも、大学に入って、3度目の恋である。性格からなのか、今日告白しよう、と決めたことはなかった。思いがけず、言ってしまって、2人とも振られたのである。2度あることは、3度あるのか?いや、3度目の正直だ!と思いたい。今回は、今までとは違う。脈がある。いや、毎回脈があると思ってないか?

自問自答の日々。田中さんと過ごす週末が楽しくて仕方がない・・・ない・・・けど・・・少し臆病になっているのかもしれない。

2度あることは?3度目の?A 投稿日:2004/06/26(Sat) 00:31 No.68 
天王寺で飲むことになった。田中さんの家の近くになる。
といっても、天王寺は、大阪有数の繁華街。その近くに家?と聞くと、どんなところだろうと思われるが、彼女は帝塚山に住んでいる。大阪市内だが、昔ながらの家が多く、お嬢様という雰囲気を漂わせる町である。田中さんにぴったりだ、と思った。

天王寺から、路面電車に乗り、住吉で降りた。そこに彼女が待っていた。
「よう」
彼女が小さく手を上げ、笑みを浮かべた。
「おう!」
今日は、住吉大社にお参りに行ってから、天王寺で飲む、という企画だった。4つある社を全部まわりながら、手を合わせた。

俺は、あることを決意していた。

願いが叶う事を祈りつつ、路面電車に乗り込んだ。

2度あることは?3度目の?B 投稿日:2004/06/27(Sun) 23:00 No.69 
路面電車の終点、天王寺駅前で降りた。改札を出ると、歩道橋の階段があって、登ると、周辺のビルの連絡通路になっている。

登って西側に行くと、アポロビルがある。そこの白木屋で飲むことにした。品数が豊富で、女性向のメニューもあり、飲みやすい。

「この店、知ってるの?」
「クラブで来たことがあって、良かったから」
「なんて言いながら、昔の彼女と来てたりとかして」
「そんなわけないやろ〜」
実際、その通りだった。女性と付き合ったことすらないのに。

「かんぱ〜い」
僕はビールジョッキ、彼女はチューハイのグラスで乾杯をした。話すことといえば、クラブのことやバイトのこと、テレビのことなどたわいもないことだが、それで十分だった。気がついたら、9時になっていた。
「もうこんな時間か」
「えっ、もう9時・・・」
「今からどっか行く訳にもいかんしなぁ」
とりあえず、店を出て、歩道橋に向かって歩き始めた。

2度あることは?3度目の?C 投稿日:2004/06/28(Mon) 22:50 No.70 
歩道橋を登り、途中で立ち止まって、車の流れを見ていた。
国道25号線・・・6車線はあるだろうか。東西に走っているその道路を、まばゆい光を放ちながら、様々な車が流れて行く。左手には、さっきまでいたアポロビルが見えた。右手には天王寺公園。でも、大きな看板が立ちはだかっていて、公園の様子はよく見えない。はたから見ると、滑稽かもしれない。あまりムードのあるシチュエーションとはいえない。ただ、このまま帰りたくはなかった。

「俺、ちょっと飲みすぎたかな」
「大丈夫?」
「大丈夫。ちょっとこうやって、風にあたっていれば」
「そやね。冷たくて、丁度いいかも」
11月の終わりの風は、冬の訪れを告げる風だった。でも、今はこれが一番いい。
「悪いな、付き合わせて。寒ないか?」
「うん。大丈夫」
右手でとっさに彼女の右肩をさすって、そのまま肩を抱いた。彼女は拒まなかった。俺の右肩に頭をもたげてきた。

今だ。俺は決意を彼女に伝えることにした。


2度あることは?3度目の?D 投稿日:2004/06/29(Tue) 22:23 No.71 
「あのな・・・」
「うん?」
一瞬の間があった。というのも、具体的にどう言おうか、考えていなかったからだ。
気持ちを伝えるつもりではいた。だが、どう伝えればいいのか・・・2度振られた俺にとって、少し臆病になっていたのも否定しない。
「2人の付き合いのことなんやけど・・・」
「うん」
「俺はいいけど、お前はどうや?」
何とも中途半端な、でも、今の俺の気持ちを一番正確に表現した言葉でもある。
「はい」
小さい、それでいて、ハッキリした返事だった。
「俺に彼女が出来たんやなぁ」
誰に言う事もなく、そうつぶやいた。
「私に彼が出来たんだよ」
お互いの顔を見た。彼女は、恥ずかしいような、うれしいような、そんな顔をしていた。きっと、俺もそんな顔をしていたんだろう。
ともかく、2度あることは、にならずに、3度目の正直、となった。

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