004209
すべては電話から
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はじまりの電話 投稿日:2004/05/04(Tue) 22:24 No.1 
「第1希望に落ちたんですぅ」
それが第一声だった。
「えぇっ!?」
「私は公立一本だし、後は後期日程待ちなんです・・・」
思ったより明るい声だった。
「先輩は私立、受かってましたよね?」
「ああ、ただ、第1希望は落ちたから、俺も後期待ちやねん。後期、どこ受けてるん?」
「精華大です」
「えぇっ!?いっしょやん!」
正直、驚いた。もし、2人とも合格すれば、辰巳直子と一緒のキャンパスでの生活になるかも・・・それも悪くないな、と思った。
「お互い、受かってるといいな」
「そうですね!」
電話を切ってから、2人が合格してからの学校生活について、あれこれと思いを巡らせていた。後期日程の受験は終了していて、後は祈るのみであった。

数日後、2人の元に、合格通知が届いた。

新しい道で 投稿日:2004/05/05(Wed) 00:19 No.2 
精華大に入学して、1週間がすぎた。
高校でクラブをしていない僕にとって、大学のクラブ決めるのは、かなり勇気のいることであった。
授業を終えて、駅に向かう途中で、ふと声をかけられた。
「斉藤君!」
振り返ると、2人の女がいた。
一人は知ってる。もう一人は、どっかでみたような・・・
「ああ、清水さん」
「今帰り?」
「そうや。え・・・同じクラスやったっけ?」
精華大は総合大学とはいえ、そう人数の多い方の大学ではない。同じ学部なら、同じ授業も多いはず。顔も当然見ているはずだが、清水さんの隣にいてる子がわからない。
「可愛いから、すぐ声かける〜」
「うるさい」
「図星やろ」
「だいたい、知り合って1週間で、図々しいねん、おまえは」
隣の子が笑った。面長な顔で、切れ長の目が細くなった。透き通るような白い肌の頬が少し赤くなった。
「文学部の田中です」
「じゃ、辰巳と同じちゃう?」
「そうですよ」
「あいつ、天然やろ?」
「あ、そうですね〜。あははは」
細い目がますます細くなった。

新しい道でA 投稿日:2004/05/06(Thu) 00:16 No.3 
「お前、甘いもん、ほんますっきやなぁ」
直子が屈託のない笑顔を見せた。
「だって、すきやねんもん」
そう言いながら、イチゴパフェの1番上に乗っかっているアイスを、少し力を入れてすくっていた。彼女の真剣な表情に、少し笑いながらホットコーヒーをすすった。

「田中さん、知ってる?」
会話が途切れたので、聞いてみた。
「文学部の?」
「そうそう」
「知ってるよ。だって、同じクラスの、番号が前後ろやから」
ああ、そうか。田中と辰巳、そうなるわなぁ。
それから、こっちは田中さんとの出会いを説明し、直子からはキャンパスでの田中さんの様子をいろいろと教えてもらった。
「ふうん。で、先輩、気になってるんですか?」
「いや、そんなんやないよ。そっちこそ、彼とはどうしてるん?」
「もう別れてん」
「えぇ?そうなん?」
「うん・・・」
それ以上は聞かなかった。大学の第1希望を落ちた時よりも、沈んでるように感じたからだ。
割り勘にして、喫茶店を出た。日がずいぶん長くなったとはいえ、まだまだ夕方は短い。風が少し冷たかった。

桜花 > うわぁ。関西弁だぁ♪おもわずニヤリました。(笑)私は長文小説は無理なのでのっぽさんが言われていたショートで挑戦中です。
だからのっぽさんには尊敬だわ♪(^^) (5/6-19:50)
No.4
のっぽさん > 尊敬は、書き終えてからにして(笑) 自信は半々なんだから。 (5/6-22:21) No.5

思い出 投稿日:2004/05/07(Fri) 00:01 No.6 
「直子ちゃん、別れたらしいな」
正二と話をするのは、大学合格の報告以来だ。東京の大学に行って1年が過ぎ、こっちのこととは縁遠くなっているとはいえ、高校時代のクラブの先輩として、直子ちゃんの別れた理由を何か知ってるのではないか、と思ったのだ。
「らしいね」
「なんでか、知ってる?」
「いや、聞いてない」
僕は、直子ちゃんのクラブの先輩ではない。同級生の遠藤正二が所属していた漫画部の後輩で、正二といつも2人組で行動していたから、直子ちゃんのこともよく知っている、ということである。
漫画部は、当時7人しかおらず、こじんまりしていた。だからアットホームな雰囲気があり、部員でない僕にも気軽に部室に入れた。そこでよく漫画を見たり、しゃべったりしたものだった。
そんな思い出話に花が咲き、つい長電話となってしまった。

電話を切ったあと、直子ちゃんの別れた理由がどうしても気になった。正二の後輩の中で一番僕になついてくれたのが彼女であり、斎藤と遠藤、同じ藤がつくことを面白がって、僕を「さい先輩」、正二を「えん先輩」と呼んでいた。
八重歯があって、小さくて可愛い感じの直子ちゃんが、どうして別れたのか・・・
俺なら別れないな、きっと。

クラブ 投稿日:2004/05/08(Sat) 01:04 No.7 
5月になったというのに、まだクラブが決められない。中学の時に3年間やったバドミントンにするか、漫研、それとも全く違うクラブか・・・実は高校の時、バドミントン部に入部したものの、体力が続かなかった事と、嫌な先輩がいたので、1ヶ月でやめてしまった苦い経験がある。

「クラブに入った?」
帰り道に会った直子ちゃんに聞いてみた。
「うん」
「え?何部?」
「吹奏楽部に入ってん」
「なんで?漫研ちゃうの?」
「勧誘がすごかったし、まあ、入ってもええかなって思ってん」
人のいい直子ちゃんらしい。
「さいさんは?」
「まだ」
直子ちゃんは、先輩、と言うのをやめていた。まあ、確かに同回生で『先輩』と呼ばれるのは、周りに『この人浪人してましたよ〜』って言ってるようなもんだ。気いつかいやな、ほんまに。

でも、呼び名が変わるというのは、新しい関係になった感じがした。その一方で、昔の関係でなくなったような感じもした。大学生活で、かなりのウエイトを占める部活・・・

俺は、部室の扉をたたいた。





入部、そして 投稿日:2004/05/09(Sun) 00:30 No.8 
体育館にシャトルの音が響く。
結局、バドミントンに入ることにした。
吹奏楽部に入るのは、動機が不純な気がして、嫌だったのだ。
新入生の入部にしては、少し遅い気もしたが、同期・先輩たちは歓迎してくれた。高校のときと違って、なにせ、部員が少なく、特に体育会なので、なんとか部員を一人でも多く残しておきたい、という思いもあるようだ。無茶な筋トレはせず、体力や課題にあったトレーニングをさせていた。僕も例外ではなく、たるんだ体が少し絞れた。一時は食欲もなく、きつかったが、少しずつ体も慣れてきた。

「でも、なんでこの時期に入部したん?」
同じ理学部で同期の河原が聞いてきた。
「どういうこと?」
「来週、歓迎コンパやで」
あ・・・何となくわかった。体育会のことだ。無茶な飲ませ方をするのは間違いないのだろう。しかも、それまで酒は飲まず、免疫がないに等しい。

案の定であった。酒がすすみ、コップに何杯もビールを注がれ、気がついたら、目の前に見たこともない色の何種類か混ぜられた酒があった。酎ハイにビール、えっ?これは・・・・・や、焼き鳥の串では?!さすがに串は飲まないが、酔っ払っていて正常な判断が出来なかった事と、先輩の「俺の酒が飲めんのか」的なプレッシャーにより、それを飲み干した。記憶があるのはそこまでだった。合宿所、といって、大学内にある宿泊施設で、そこに酔いつぶされた新入生が寝かされる、という訳だ。先輩二人に抱えられ、倒れるようにして寝たらしい。
翌朝、激しい2日酔いで目が覚めた。大便器を抱えながら、とんでもないところへ入った〜、と思いながら、吐こうとしていた。

それぞれの方向 投稿日:2004/05/10(Mon) 00:11 No.9 
類は友を呼ぶもので、気がつけば、学部のつれが体育会の奴ばかりになっていた。いや、もう一人、清水がいた。紅一点、といえば聞こえは良いが、髪は短め、馴れ馴れしい印象があったが、話せばなかなか良い奴で、気がつけば一緒に行動してることが多くなっていた。
「ノート貸して!」
河原が清水に頼み込む。
「じゃ、昼ご飯おごりで」
「おまえ、もうけてんなぁ」
思わず、俺が言った。「じゃ、俺も乗った」
「なんや、あんたもかいな。ええで」
そして、みんなで清水の飯をおごる、という具合だ。
清水はクラブに入っていない。女の子同志で行動することもあるが、俺らと行動することも多い。違和感は無かったが、不思議な気もした。

「あっ、さいさん!」
「ああ、直子ちゃん」
体育会+1の面々が、おっ?という顔をする。



それぞれの方向A 投稿日:2004/05/11(Tue) 00:24 No.10 
「今帰りなん?」
「うん」
お互いの学部の友人の話をして、二人盛り上がっていた。
ふと人の気配が無くなったので、振り返ると、奴らが歩くスピードを落として、10メートルくらい後ろでにやついていた。
「おまえら、なにしてんねんな」
俺の顔もにやついていた。
「あ、そうや、美味しいパフェの店見つけてん!」
直子がマイペースにそう言った。
「えぇ、そうなん?」
ふりかえると、奴らが手で、行け!行け!と一様に動かしている。
「おまえらなあ!」
もうだめである。まるでしまりのない顔になっていた。
「えっ、いいの?」
直子がそう言ったが、こいつらがとめるわけない。まあ、とめてもいらんけど。
先に行くことにした。
「ふうん・・・・・」
清水がそうつぶやいた。

自宅に帰った清水に一本の電話があった。
同じ学部の女友達からの、合コンの誘いだった。

1年目の夏 投稿日:2004/05/12(Wed) 00:22 No.11 
1年目の夏、僕はクラブに明け暮れていた。
授業がある時期と同じように練習日があり、秋のリーグ戦に向けての、夏合宿も行われた。屋内のクラブの夏合宿は悲惨である。窓を開けることが出来ない。40度近くになる日もある。来る日も来る日も、シャトルを追いかけていた。

直子ちゃんとは、付き合っていない。さほどデートを重ねてるわけでもない。直子ちゃんも、吹奏楽部の活動で、忙しい日々を送っていた。文化部も、秋に発表会をするところが多い。吹奏楽部もその1つである。秋にコンサートを控えていた。

清水はアルバイトを続けていた。通信教育の添削業務で、大学入学時から始めているそのアルバイトで、田中さんと知り合ったわけだ。週に1回、大阪にある本社に答案を取りに行く。歩合制で、1枚いくら、という仕事だ。
2人は同じ日に答案を取りに行き、そこでばったり出会った。どちらが誘ったともなく、喫茶店に入った。清水が切り出した。
「明日香ちゃん」
「何?」田中さんは、笑うとなくなるその目をさらに細めて聞いた。
「実は・・・」清水の頬がすこし紅潮した。

遠藤が東京から大阪に帰ってくる、という知らせを受けて、早速会うことにした。待ち合わせ場所は、高校から程近いファーストフード店。
時間に正確な遠藤は、待ち合わせ5分前に来ていた。
お互いの大学の話をひとしきりした後で、俺が切り出した。
「遠藤」
「ふん?」間の抜けた返事をした。こいつらしい。
「実は・・・」

1年目の夏A 投稿日:2004/05/12(Wed) 23:55 No.12 
「俺・・・直子ちゃんのこと、気になってるねん」
「気になるって?」
遠藤が目を少し大きくして、聞き返した。
「・・・好きになったんちゃうかなあ、俺」
「あ・・・そういうこと」
冷静で動じない遠藤が少し驚いて言った。
「なんかな・・・別れた、って聞いてから、俺、どうにかしてやりたいなぁって、思っててん。そこからかな。」
「うん」
「高校の時つるんでた仲間で、直子ちゃんだけが同じ大学で、勝手やけど、運命的なものを感じるし」

「あんな、」遠藤が切り出した。「違うと思うで」
「どういうこと?」
「『直子ちゃん、かわいそうやなぁ』って思いを勘違いしてるだけやと思うで」
「いや、そんなことはないと思うけどなあ」
「同じ大学に行ったから、なおさらそう思って」
「いや、ちゃうって」
「そうやって」

話は平行線に終わった。
どうして平行線に終わったんだろう。俺は何が言いたかったのだろう。そして、正ニになんて言って欲しかったのだろう。
ただ、皮肉なことに、自分の気持ちが明確に分かってしまった。

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