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誘 惑
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[第五章・まつH] 投稿日:2005/03/05(Sat) 21:05 No.57 
しばらくの沈黙の後。。。。

まつ > 癌だよ。喉頭癌。
恋由姫 > えっ・・・  

恋由姫は一瞬言葉を失った。
何と返事していいのか、いろんな言葉が頭を駆け回っていた。

まつ   > ごめん、驚かせちゃったね
恋由姫 > あっ! ううん… 私が聞いたから… だから、まつは教えてくれたんだもの
まつ   >入退院をね、何度も繰り返してるんだ
恋由姫 > そうなんだ… でも今は、良い治療法があるから、きっと治るでしょ?
まつ   > どうかなぁ…  僕の場合はかなり進行しているみたいだから。
恋由姫 > でも、気持ちの問題でしょ? 今のまつは病気に立ち向かう姿勢が見えない
まつ   > でもね、恋由姫に会ってからは 治りたいって気持ちが出てきたんだよ
恋由姫 > 私は、こうやってメッセでお話しするだけで 他に何もしてあげられないけど、元気なまつでいて欲しいっていつも思ってる
まつ   > ありがとう… それだけで充分だよ。  今日はもう疲れた、少し眠るよ
恋由姫 > うんうん、ゆっくり休んでね

          (私は まつに何がしてあげられるだろう)
(メッセで話して、励まして、それだけ?)
(他に何か出来る事は無いだろうか・・・・ )

[第五章・まつI] 投稿日:2005/03/06(Sun) 14:56 No.58 
恋由姫とまつが出会ってから数ヶ月、ほとんど毎日のようにメッセンジャーで話してきた。

まつは釧路在住… 
58歳… 
一年半前に再婚同士の奥様と入籍… 
東京で結婚している息子さんがいて、最近初孫が生まれた…
写真を撮ることが好き… 
今は病気療養中で月に二度通院… 
抗がん剤治療と放射線治療を交互でしているらしい… 
いちばんの問題は病気に対して前向きじゃない… 

恋由姫は何もしてあげられない事が歯痒かった。。。
まつに何をしてあげられるか? 
考えた結果…
渡せるわけの無い千羽鶴を  「治って欲しい、元気になって欲しい」って願いを込めて折り始めた。。。
もちろん 千羽鶴のことは まつには内緒…
まつに言ってしまったらご利益がなくなるって思ったから。。。。


[第五章・まつJ] 投稿日:2005/03/07(Mon) 14:08 No.59 
ある日の会話。。。

まつ   > 報告!
恋由姫 > なになに? 何だかいい報告っぽいなぁ
まつ   > うん! とってもいい報告だよ。 実はね今度写真展をする事になったんだ
恋由姫 > えっえぇぇ!? 凄いじゃない!
まつ   > 前からね、話だけはあったんだけど病気のこともあって延び延びになってたんだよ
恋由姫 > そうだっだぁ… 良かったね
まつ   > うん、ありがとう! とっても嬉しいよ
恋由姫 > それじゃあ 準備とかで忙しくなるんじゃない? 身体に障らなきゃいいけど
まつ   > 大丈夫だよ。好きなことやるんだし、協力してくれる人もいる
恋由姫 > うまくいくと良いね
まつ   > 恋由姫にも見に来て欲しいけど無理だよね
恋由姫 > うん… 私も行きたいけど無理。。  ごめんね
まつ   > そうだよね、 わかってるよ
恋由姫 > まつの写真展が成功するように祈ってるからね
まつ   > うんうん! 勇気百倍! 元気百倍だよ!

(よかった! )
(写真展って目標が出来て、まつ生き生きとしてる)
(この勢いで 病気なんて吹っ飛んじゃえばいいのに)

[第五章・まつK] 投稿日:2005/03/08(Tue) 18:54 No.60 
写真展の準備でまつは忙しそうだった。。。
疲れたから… と言って メッセンジャーで話すのも めっきりと減っていた。。
それでも まつが生き生きとしている事が何より! と恋由姫は 陰ながら見守っていこう… と思っていた。。

数週間後。。。。

まつ   > 写真展、無事に終わったよ
恋由姫 > そうなの? おめでとう!
まつ   > ありがとう… 恋由姫の励ましのお蔭だよ
恋由姫 > ううん・・  まつが頑張ったからでしょ?
まつ   > 恋由姫に送った写真も何点か出品したんだよ
恋由姫 > そうなんだぁ・・  キレイな写真がいっぱいだったもの。
まつ   > あっ、 写真送っていいかい?
恋由姫 > いいけど… 何の写真?

まつの写真展の会場内をいろんな角度から写した写真が数枚送られてきた。
綺麗なブルー色のカウンターが受付になっていて、薄い水色のパネルに何枚もの綺麗な写真が飾られていた。。
アマチュアのカメラマンっぽく こじんまりとしたいい雰囲気の会場内の様子が伝わってきた。。

まつ    > こんな感じの写真展だったよ・・・  恋由姫にも見てほしかったなぁ
恋由姫  > この次の写真展は きっと見に行くね
まつ    > この次なんて、きっと無いよ。。。。
恋由姫 > また そんな事言ってるし!  

      (でも、写真展が無事に終わってホントによかったぁ )
(やっぱり、何かの目標を持つと 元気が出てくるんだろうなぁ)
(気が抜けちゃって、また元気なくならなきゃいいけど・・・ )  

[第五章・まつL] 投稿日:2005/03/09(Wed) 20:51 No.61 
ある日の会話。。。。

まつ    > 実はね、今日はお願いがあるんだ
恋由姫  > なに?
まつ    > 恋由姫の声が聞きたい…  電話で話したいんだ
恋由姫  > あっ、 うん…  でも突然どうしたの?
まつ    > もうすぐね、声が出なくなるんだよ
恋由姫  > どうして?
まつ    > 理由のひとつはね、そういう病気だから。  あとはね、放射線治療で声帯が焼けてしまったから。
恋由姫  > そうなんだ・・
まつ    > また驚かすような事言っちゃったね・・  ごめん
恋由姫  > ううん… 私も まつの声が聞きたい! こちらからかけようか?
まつ    > いや、こっちからかけるよ。 番号教えてくれる?
恋由姫  > うん・・ 携帯でいい? 090-○○○○○・・・・・
まつ    > ありがとう…   それじゃかけるよ

初めて聞くまつの声は かすれていて、ほとんど聞き取りにくい状態だった。。。
声にならないようなか細い声で 「もしも僕が元気になったら 会いに行っていいかい?」と まつが言った。。
「もちろん・・ いいよ 」と、恋由姫は溢れ出る涙をこらえながら返事をした。。。。

恋由姫とまつが 電話で話したのはこれが最初で最後だった。。。

[第五章・まつM] 投稿日:2005/03/10(Thu) 17:07 No.62 
まつの病状は かなり悪くなっているようだった。。。。
メッセンジャーで文字だけのやり取りなので、まつが見えているわけじゃないけど、恋由姫にはまつの様子がとってもよくわかっていた
「大丈夫、元気だよ」とは言っても、まつがPCに向かう時間は どんどん短くなっているもの・・
身体がツライって事くらい ちゃんとわかる。。。

まつ  > 突然なんだけど、明日からまた入院する事になったよ。
恋由姫 >えっ…  そうなの?
まつ   > 今回はね、抗がん剤投与のための入院なんだ。。  通院でもいいんだけどね、副作用がキツイから入院することにしたんだよ
恋由姫 > ツライ治療なの?
まつ   > あぁ… とってもツライよ。 でも、恋由姫に会うためだ・・・  ツライなんて言ってられないよ
恋由姫 > うんうん・・  頑張ってね・・  まつ。。
まつ   > 退院してくるまで メッセは出来ないけど、 携帯でメールするよ
恋由姫 > うん! 私もメールするね。 でも、まつ? 病院は携帯は禁止でしょ? 見つかったら大変!
まつ   > 大丈夫だよ・・ カーテンの陰に隠れてメールするから
恋由姫 > それじゃぁ、 帰って来たらまたメッセでお話ししようね・・・
       いってらっしゃい・・ まつ

          (抗がん剤の投与って、かなりツライんだろうなぁ)
          (吐き気が酷くて食欲も無くなる?)
          (髪の毛が抜けちゃったりもする?)
          (でも、きっとまた元気に戻ってくるはず・・・ )
          (頑張れぇーー  まつ! )

[第五章・まつN] 投稿日:2005/03/11(Fri) 14:44 No.63 
まつが入院してから数日が過ぎた。。。
携帯からメールするって言ってたのに、まつからのメールは一度も来ない。。
まつからのメールが来た時に恋由紀姫からもメールをすると約束していた。。

         (どうしたのかなぁ・・  まつ )
         (治療がよほどつらくてメールもできなのいのかなぁ・・・ )
         (病院に携帯持って行くのを忘れちゃったのかも?)
         (それとも、メールしてるところを見つかって携帯を没収されちゃったのかも?)

まつからのメールが どうして来ないのか・・  恋由姫はいろいろと考えてみた。。
でも、どれも恋由姫の想像であって本当の理由なんてわからない。。。

         (私からメールしてみようかなぁ・・・ )
         (でも、もしも治療がツライなら迷惑になるかもしれないし )
         (やっぱり まつからのメールを待つことにしよう・・ )


[第五章・まつO] 投稿日:2005/03/12(Sat) 08:27 No.64 
まつが入院してから既に一ヶ月が過ぎている。。。
まつからのメールは一度も来ない。。。
まつが入院する前から折り始めていた千羽鶴が出来上がった。。。
      
      (抗がん剤治療って一ヶ月もかかる?)
      (どのくらいの入院なのか聞いておけばよかった)
      (もしかしたら、もう退院しているのかもしれない… )
      (だとしたら、メッセが上がってもいいはず。。 )

そんな事を考えながら、恋由姫は千羽鶴を眺めていた。。。

[第五章・まつP] 投稿日:2005/03/13(Sun) 14:09 No.66 
思い切って恋由姫は まつにメールをしてみた。。。

 『こんにちは・・ まつ。 おひさしぶりです。
  治療は順調に進んでいますか? つらくはないですか?
  まつからのメールが来ないので心配だけど、きっと元気でいるって信じてます。
  一日も早く、まつが退院してくることをお祈りしています。。。。
                                        恋由姫♪ 』

恋由姫は、もしかしたら まつから返事が来るかもしれない… って期待して、送信ボタンを押した。。。

まつ宛てのメールを送信直後に、一通のメールを受信した。。。。

    『送信者・iモードセンター
        ユーザーがみつかりません。 @以前をご確認ください
                            User Unkown 』

        (えっ!? まつにメールが届かなかった? )
        (そんなはずは無い )
        (もう一度・・・・  )

と… 恋由姫は再度 まつ宛てにメールを送信してみた。
結果は同じ。。。。

        (どうしてだろう・・・ )
        (まさか…  ううん、そんなはずは無い)
        (メールが駄目なら 電話をしてみる? )
        (でも 入院中のまつに電話なんて迷惑になっちゃう?)




[第五章・まつQ] 投稿日:2005/03/14(Mon) 15:28 No.68 
恋由姫は勇気を出してまつに電話をかけてみた。。。。

『こちらはNTTドコモです。 おかけになった電話番号は現在使われておりません。
   お手数ですが、番号をお確かめになっておかけ直しください。』

(うそ! どうして? どういうことなの?)
(メルアドだって、番号だって間違えは無いはず)

それなのに、どうしてメールは届かないし、電話も通じないのか…
恋由姫は考えてみた。。。。

     (まつは 完全に寝たきりになってしまって、携帯は解約された?)
(それとも・・・・・)
(こんな事は 考えちゃいけないけど… もしかしたら、まつは死んじゃったの?)

そう思った瞬間… 恋由姫の身体に寒気が走った。。。。

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