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ダブル
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そこにある記憶 投稿日:2005/11/12(Sat) 16:56 No.1 
 俺は右手を見つめていた。
 ただじっと。
 放課後の教室で、思い耽ける。
 これは懺悔なのだろうか?
 それともただの後悔なのか。
 こんなことを思うようになったのは、あの冬の夜からだ。
 家族四人で行ったスキー旅行。
 最終日に起こった出来事だった。
「明日の朝には帰るから、そろそろおみやげを選んでおけよ」
 満足げに笑う父のその言葉は、冬休みの終了を諭すようだった。
 それを聞いた弟は、夜の雪山でひと滑りしようと言い出した。
 そのまま帰るのが惜しいと思ったんだろう。
 満点の星空の下、白雪の上を滑る。
 確かに魅力的な誘いだった。
 いけないとは分かっていても、幼なじみへの土産話になると思った。
 見つかれば怒られたというオチが付く。
 その程度の感覚だった。
 考えが甘かった。
 覚えているのは指の感触。
 少しづつ重力に引きずられ、触れる面積が減ってゆく弟の指。
 世界中の闇を集めたような底の見えない穴が、弟を捕らえて離さなかった。
 昼間に気づかなかったロングコース。
 興味津々の弟が返事を待たないうちに行ってしまい、気が付けばこうなっていた。
 しっかりしない足下で、手に力が入る。
 吹雪く音だけの白い世界で、ただ生還することを願って引っ張っていた。
 神経は目の前の事態に持って行かれて、寒いなどと感じる余裕さえない。
 己の右手一つに弟のすべてが懸かってる。
 恐ろしかった。
 だが現実はとても無慈悲で、時間がもたらしたのは疲労だけだ。
 弟の手袋がずれはじめる。
「ソラ、オレ、死にたくないよ……」
「大丈夫だリク、あきらめるな」
 弟の不安が自分にも絡み付くようで、それを振り払うように言った。
 手袋がぎゅっぎゅっと音を立てて、中身だけが抜けていく。
 嫌な感触だった。
 吸われていく―――。
 俺の弟が消えてしまう!
「あ―――」
 雪が溶けるような儚い音を発した弟は、それこそ音もなく闇に呑まれて行った。
 それが一年前。
 まだこの手にはあのときの感触が残っている。
 やっぱり後悔なんだろうか?
 弟の人生を―――。
 冷たい風が頬を撫でて、思考に水を差した。
 あれから本当に一年が経ったんだな。
 開いた窓から雪がチラチラと舞い込んでいた。
「雪は嫌いだ………」

繋がり 投稿日:2005/11/12(Sat) 17:35 No.5 
 昔はアパートや団地などと呼ばれていた廃墟群。
 持ち主にすら見捨てられた哀れな場所で、コンビニの袋をさげて歩いていた。
 空からいくつもの白粒を撒く雲を眺めながら階段を上る。
 鼻歌交じりにキーを差し込み、ドアを開いた。
 薄暗い部屋の奥で、なかなかしっかりとした明かりが灯っている。
 百円ショップの電池スタンドでも思いの外使えるもんだな。
「ただいま、ミズキ。いいコにしてた?」
 建物の中とはいえコンクリートが剥き出しの部屋だ。
 上着は脱がずに前を開くにとどめた。
「食べ物、買って来たよ」
「リク………」
 オニギリ一つ差し出して笑い掛けると、彼女はどう言葉を返していいのかわからないような顔をした。
 首から下がった鎖を鳴らして――。
「どうかした?」
「リク、もうこんなこと……」
 鎖に触れるとひどく冷たかったが、なんだか安心した。
 革の手錠から下がる鎖は首輪と繋がっていて、コンクリートの床にクサビで打ち込んである。
「あのときにこれがあればよかったのにな……」
「………リク」
 鎖に滑らせてから触れる幼なじみの頬は、とても温かかった。
 朱に染まる頬にそっと口付けると、やわらかな甘い声。
 耳に舌を這わせると、堪えた声がこぼれた。
「また刻み込んでやるよ。お前が誰のものなのか……そのカラダにたっぷりと」

困惑は連鎖する 投稿日:2005/11/12(Sat) 17:38 No.6 
 雪が三日も続いたのがウソのような天気だった。
 少しぼうっとするには困らない寒さで、屋上での昼食もそれなりに悪くはなかった。
「ソラ」
 突然の呼びかけに振り返ると、弁当を抱えた幼なじみが不満そうに立っていた。
「ミズキ………どうしたんだ?」
「一人で昼食すませちゃうなんてひどくない?」
「三日間も学校休んで、連絡一つなしの人の言葉とは思えないな」
「だってそれは―――その……」
「おばさん心配してたぞ」
 自分に振られることくらいすぐに分かりそうなものだが、相変わらずのおばかさんだ。
「わたし、ソラみたいにいいコじゃないもん」
 長い髪をいじりながら、口をとがらせて言う様がかわいらしい。
 昔からすねるときの仕草は変わらない。
「嫌なことあったら、いつでもうちでかくまってやるよ。グチだって聞いてやる」
 頭をクシャクシャに撫でてから、やさしく抱き締めた。
「だから、あんまり心配させるな」
「ん………ごめんね」
 返事は少し、涙が混じっていた。
「最近あまり話しかけて来ないし、甘えても来ないから、他にいいヤツが見つかったのかと思ったよ」
 普段ならなんでもない彼女に対するグチ。
 いつもみたいに怒った顔をつくって答えてくれると思ってた。
「ちがう! そんなんじゃないよ!」
 ひどくうろたえた、焦りの色で染まった表情だった。
 呆気に取られて彼女を見つめると、すがるように腕を掴まれる。
「わたしには必要だもん! わたしはリクがいなきゃ―――」
 ハッとした。
「俺はソラだよ………ミズキ」
 殴られた方がまだ笑えた反応だった。

それぞれが持てる量 投稿日:2005/11/12(Sat) 17:46 No.7 
 なかなか堪えるよな。
 弟が好きだった―――か。
 あの笑顔も涙も、本当は弟に向けたものだったんだろうか?
 これからミズキと顔合わせるのがツラくなるな。
「ねえ、ソラくん!」
「………先生」
 右手を眺めながら廊下を歩いていると、書類の束を抱えた担任に呼び止められてしまった。
 嫌なタイミングで………。
「荷物持ちは嫌ですよ」
「なんで先に答えちゃうかなあ?」
「先に言われたら言う手間がなくなって楽でしょ?」
「そんな優しいこと言ってくれるソラくんなら、当然持ってくれるよね?」
「すみません、今の言葉が本日最後の優しさでした」
「う……売り切れなの?」
「在庫切れですね。しばらく入荷の予定もないですよ」
 言葉での回避は成功した。
 ―――のだが、この後の強攻策に負けてしまった。
 しかしなんで先生ってのは、なにかに付けて生徒に用事を言い付けたがるんだろうな。
 受け取った荷物は半分程度なのに、想像よりも重かった。
 普通の紙束じゃないな………これ。
 ホントに今日はツイてない日だ。
「そういえば、前から言おうと思ってたんですけど」
「なに?」
「もう名前で呼ぶ必要もなくなったんですから、名字で呼んでくれませんか?」
「あら? どうして?」
「教職者が一部の生徒だけを名前で呼んでたら問題あるでしょう? 特に先生は女性なんですから」
 そんなことをため息混じりに言うと、
「私はね、キミに双子の弟がいたことを忘れたくないの」
 と真剣な眼差しで返した。
「そうですか………」
 この人、ホントにいい先生だよな。
 改めてそう思った。
 生徒も教師も、去年に終えた弟の話は腫れ物として扱っていた。
 あのミズキでさえも―――。
 冗談半分で言った優しさの在庫は、今後入荷することなんてあるんだろうか?
 自然と流れた視線の先は、ガラス窓一枚隔てて雪が降っていた。
 結局今日も雪か。

影は笑う 投稿日:2005/11/12(Sat) 18:20 No.10 
 肌に染みる空気が、とても心地よかった。
 熱を帯びた彼女の吐息は、甘い声を絡めてオレを刺激する。
 乱れた学生服に隠れる乳房に舌を延ばすと、期待の喘ぎが髪を揺らした。
「今日は、なん……だか、機嫌が………いいね」
 甘美な刺激に言葉を詰まらせながら、ミズキは不思議そうに言った。
 今の状況がひどくおかしく思えて来て、堪えても声が出る。
「死人とセックスする気分はどうだ?」
「キミは………生きてるでしょ」
 荒んだ息を整えながら言った。
「まあな」
 どんなに言葉を交わそうと、おかしさが拭えることはない。
 ベッドパイプに繋がった手錠を外すと、快楽に染まった肌を隠すようにした。
「それじゃ、上で踊ってくれよ」
「あ………うん」
 一瞬の困惑の後、長い黒髪で俺の視界を遮るように口付けて頬を撫でた。
 どうもまたぐ姿は恥ずかしいらしく、羞恥を抑える小さな抵抗だった。
 髪を撫で梳くと、制服のスカートから伸びる柔らかそうな脚が見えた。
 それは裸よりずっといやらしく、恥じらう仕草は彼女の思惑とは裏目に、興奮を呼び寄せる媚薬でしかなかった。

ドアの代弁 投稿日:2005/11/12(Sat) 18:26 No.11 
 闇の中でけたたましく響くデジタル音。
 右手を見つめて蘇る記憶とは違い、居心地がいい。
 手を伸ばすと寒さが堪えたが、あまりうるさいのもごめんだ。
 丸み掛かった頭を叩くと、カチリと文句を述べてそいつは黙り込んだ。
 毎日起こしてくれて感謝はしてるよ。
 ただ今日は休日だ。
 もう少しこうしていたいんだ。
 昨日は、色々会ったしさ。
 布団の温もりに甘えて身を縮めると、透き間から風が吹き込んだ。
 ………変だな。
 完全な密室ではないにしろ、風と感じるほどの空気が布団にもぐりこんで来るなんて、どう考えても在り得ない話だった。
 仕方なく布団から顔を覗かせると、窓が開いていた。
 この時期に窓を開けて寝るなんて奇行をするはずがない。
 だが開いている。
 酒に酔った覚えもないが、そんなことを考えても現実に開いているのだから、寝ぼけて開けたのだろうと認めるしかなかった。
 チラチラと陽に照らされた雪を見て、二度寝の強行も考えられない。
 未練がましく布団を背負って寒さから逃れながら窓を閉じる。
 しかし、ホントにどうして窓が開いてたんだろうな。
 昔なら、リクがこんなふうに俺の部屋に入り込んでイタズラしたもんだが―――。
 それ以上考えを回すのが空しく思えて、頭を振った。
 ミズキは、泣いてるだろうか?
 昨日はついムキになって耳をふさいだが、このままはマズイよな……。
 ずれた布団を再度背負い直して振り返ると、とんでもないものが目に入った。
「なんだよ………これ」
『ミズキはオレのものだ ソラには渡さないぜ リク』
 そんなスプレー書きをされたドアが、いつものように朝一番の開口を待っていた。

ひーちゃん > 主人公は、また、双子か^^
双子が好きじゃね〜〜^^おまけに、2文字の名前が好きじゃろ〜〜^^NO1からNO5になってるけど、あれは別に気にしなくてもいいんかな?変な事が気になる私^^;内容は、この方が読みやすい^^これから、どうなって行くか気になるわ^^ (11/12-23:13)
No.12
うみ > だって楽なんだもん……2文字の名前^^
双子なのはまあお話的にやむなく^^;
1から突然5なのは、投稿のやりなおしをしたのです^^v
これからの展開と内容の薄さが目立っちゃうTT (11/13-08:32)
No.13

解放者 投稿日:2005/11/15(Tue) 21:48 No.14 
 玄関のドアを開くと、苦々しい記憶をえぐる光景が広がっていた。
 ここ四日、降っても積もることのなかった雪が、夜の闇を淡く溶かしている。
 リクを呑み込んだ白い地面が、今度は自分の足にまとわりつく。
 まるで「次の獲物はお前だ」と宣言されているようでぞっとする。
 ………くそっ。
「………ソラちゃん」
 懐かしい呼ばれ方に驚いて見上げる先には、小さな門が大きく見えるほど小さくなったミズキが顔を覗かせていた。
「そう呼ばなくなったのって……いつ頃だっけ?」
 こぼれるように出た言葉は、彼女の涙と笑みを溢れさせた。
「なに泣いてるんだ。俺がいじめたみたいに思われるだろ」
「だってぇ………」
 髪の影で涙を拭うミズキの表情は、ほっとした思いに満たされていた。
 それでも顔を見てより大きな安心を得られたのは、きっと俺の方だ。
 霧散する不安と恐怖は、彼女ミズキの存在の大きさを物語る。
「今なら………謝らせてくれる?」
 尋ねなくてもそう確信している甘えた笑みは、優しい気持ちをくれた。
 これで在庫切れではなくなったな。
「そうだな………抱き締めさせてくれたら聞いてやってもいいよ」
 門を開きながら言うと、勢いよく飛びつかれた。
 ホントに甘えたがりだな。
 そんなことを思いながら腕を回すと、彼女の髪の冷たさに目を見開いた。
「おい、お前いつからここにいたんだ?」
 無理やり引き剥がして頬に触れると、まるで氷のように体温を奪われる。
「え? そんなに経ってないよ?」
 二時間? いやもっとかも知れない。
 それくらい芯まで冷えた感触だった。
 頬に触れる俺の手を引っ張って、ミズキが時計を見る。
「あ………六時間も経ってる」
「バカ! 時計くらい見ろ!」
 上着を頭にかぶせて手を引く。
「だってケイタイ忘れちゃったんだもん」
「大体家が隣りなんだから外で待つというのがわからん!」
「だって―――」
「いいからうちの風呂に浸かれ!」
「あっ、ちょ、ちょっとソラちゃん! クツクツ」
 突然のことに対応仕切れないミズキの脱げた靴は片方だけだったが、気にせず引っ張り入れる。
 それでも脱ごうと抵抗するので抱き上げると、おとなしくなった。
「今俺が入ったところだから、シャワーよりは断然いい!」
「もしかして誘ってる?」
「誘うならもっと気に利いたこと言う!」
「あ、そうだよね」
「とにかく今は温ったまれ!」
「ソラが温めてよ」
「後でいくらでも温めてやるから今は風呂だ!」
「今がいいー」
「言うこと聞かないコはおしり叩くぞ!」
「十七でその世界は早いと思うなぁ」
 マイペースにとぼけた発言を続けるミズキを脱衣所に投げ入れて、
「着替えは後で持って来るから、とにかく湯に浸かってろ!」
 と、叫んだ。
 なにか言いた気な返事をするミズキの声をドア越しに聞くと、やっと冷静に頭が回りはじめる。
「………」
 とんでもないことを口走った気がする。

本能の温もり 投稿日:2005/11/15(Tue) 21:56 No.15 
 ベッドに座ってドアを眺める。
 キレイになったドア。
 おふくろの除光液と貴重な休みの半日を使って消したドアの落書き。
 鼻を突くようなシンナーの臭いもキレイさっぱり消したが、まぶたの裏には鮮明に刻まれている。
『ミズキはオレのものだ ソラには渡さないぜ リク』
 昔に似たような落書きをリクにされたことがあった。
 だから消し方は思い出したが、すぐには作業へ移れなかった。
 誰かがリクのマネを?
 バカな………。
 家族しか知らない出来事を、一体誰が出来るって言うんだ。
 家族がやるなど考えられない。
 ………まさかリクが生きている?
 いや、まさか……。
 だが―――。
 ドアのノックが思考を止める。
「ソラ、入るね」
 ノックをするようになっても、返事を待たずに入るのは昔のままで笑ってしまう。
「なに笑ってるの?」
 風呂上がりなのを嫌でも理解させる赤らんだ頬は、ひどく女性を意識させる。
 でも意識させるのはそれだけではなくて、笑っていた口をつぐんでしまう。
「なに顔背けてるのよ?」
「着替えは用意しておいたろ?」
「そだね」
 返事はこちらの反応を楽しんでいるような音を含んでいた。
「どうしてバスタオルのままなんだよ」
「さて、どうしてでしょう?」
 隣りに腰を預けたらしく、ベッドの軋む音と同時にカラダがそっちへ傾いてしまう。
 色づいた声で笑う彼女の手が俺の頬を挟んで、強引に自分へと向けさせる。
「やだ、真っ赤………」
 嬉しそうにそう言って覗き込む目は、艶めいた期待を映していた。
 ミズキとこうするのは初めてじゃないが、やっぱり照れる。
「誘ったのはソラだよ?」
「うるさいよ」
 キスして黙らせると、抗議するように舌を絡めて来た。
 門の前で幼い草食動物のようだった彼女が、今では百戦錬磨の肉食動物のように行動的だ。
 上唇を吸い、鼻先をかじったり、頬を嘗め、耳をしゃぶり、頭をクシャクシャに抱き抱えられ、もうされるがまま。
「ソラ……ソラ、ソラ!」
 気持ちが高ぶることを示すように、俺の名前を呼び続ける。
 彼女のキスの雨はシャツを弾いて降水域を広げていく。
 その姿は懸命と言うより、不安から逃れるための手段のようだった。
「………ミズキ」
 まだ濡れている頭を何度も撫でて、梳いた髪に口づける。
 はじめは突然の俺の行動に驚いていたが、頬を寄せ擦ると声をくぐもらせた。
「ん………これ、気持ちいい」
 性の高ぶりとは違う彼女の声。
「俺もだよ、ミズキ」
 欲望のままにカラダを重ねてもだえるのは簡単だ。
 ただ求め合うのとは、少し違う。
 安心を与え合う。
 思いを重ね合う。
 胸が温もりに満たされる。
「これだけじゃ不満か?」
 頭を撫でながら尋ねると、首を横に振った。

ひーちゃん > またまた、面白い展開じゃね〜〜^^

官能小説とは、ほど遠いけど、こういうのもいいね〜〜^^
女性は、この展開の方が嬉しいかも^^
(11/16-09:56)
No.16

届けられた予感 投稿日:2005/11/16(Wed) 17:53 No.17 
 陽が下り、月が星を従えて主となる時間。
 雪を踏み締めて、たった数メートルの帰り道を歩く。
 玄関まで送ったミズキの言葉が、頭で鳴り止まないでいた。
「リクは、いなくなったんだよね?」
 不安に捕らわれた表情で、声は震えていた。
 なぜそんなことを今更尋ねるのか。
 俺の不安をかき立てる。
「わたし怖いよ……ソラまでどこかに行っちゃいそうで……」
 ミズキはそこまで言うと、ぼろぼろと泣き出してしまった。
 なぜそこまで不安になるのか。
 彼女の仕草と行動が、今朝のドアを思い出させる。
 リクは生きているのか?
 ならどうしてうちに帰って来ないんだ?
 どうして姿を見せない?
 わが家の門が視界に割り込み、さっき気づかなかったものに目が向いた。
 郵便物の到着を示す旗が上がっていた。
 こんな時間に?
 ポストの中には封筒が一つ入っていて、宛もなく送り主の記名もない。
「………誰だろ?」
 開くとビデオテープが一本だけで、他にはなにもなかった。
 嫌な感じが胸から背中に掛けて広がっていく思いがした。

ビデオテープ 投稿日:2005/11/16(Wed) 17:58 No.18 
 部屋の電気も点けずにテレビの電源に手を伸ばす。
 興味のない番組をさっさとビデオに切り替えて、テープを呑み込ませる。
 妙に静かな部屋に「中身」を読み込むまでの作業音がやけに響いた。
 画面にその記録が映ったのは、入れてから一分も掛からなかったが、ひどく長い時間に感じた。
 ―――ミズキ!
 画面に映し出されたその顔は、つい今し方別れた幼なじみ。
 涙がこぼれる頬を赤くして、悲しいのかどうかうかがえない表情で目をそらしていた。
 そこでなにをしてるんだ?
 どうして泣いてるんだ?
 その疑問は嫌な想像を膨らませる。
 いや、再生のボタンを押したからその想像ははじまっていた。
 ただ認めたくなかっただけだ。
 スピーカーからは、断続的な喘ぎ声をもらしながら、行為に対する抵抗と非難の声が発せられていた。
「やだ……こんな……の」
 そして、小さな金属が何度もこすれる音。
「首輪!?」
 チャラチャラと音を立てる鎖。
 ビデオデッキに浮かび上がる数字が増えるにつれて、映像はもっと露骨になっていく。
 上気した白い肌に艶めかしく揺れる髪、もだえる唇からこぼれる舌とよだれ。
 乱された学生服から覗くピンクの突起と、スカートの庇護を離れた薄い白布は太腿のところで丸まっていた。
 だがなにかがおかしい。
 なぜミズキはこんなにも抵抗が弱々しいんだ?
 行為に対する拒否というより、記録を残すという拒絶。
 相手を嫌がっていない?
 認めたくない現実が頭をかすめる。
「なあ、言ってやれよミズキ」
 聞き覚えの在る声がした。
 十六年間毎日耳にして、去年の冬に闇に消えたあの声。
「この胸も」
 その声の主と思われる手は、揺れるミズキの乳房を鷲掴んで柔らかさを堪能し、もう一方の手は細いあごに絡んで、濡れる唇に侵入して赤い舌を蹂躙した。
「この声も」
 溢れる感情を喉で堪える笑いは、こちらを馬鹿にしているようだった。
 いや、しているんだ。
「オレが誰だか分かるよな? ソラ」
 問いかけと同時に顔を見せたのは、かつて母胎で一つだった弟。
 優越に満たされた表情を浮かべて、こちらを見下ろしていた。
「おね……がい……撮ら……な………いで」
「本当は嬉しいくせに」
 泣くながら抗議するミズキに脚を開かせ、下から何度も突き上げる。
 悲鳴にも似た艶声をこぼす彼女の涙を舌で拭いながら、スカートの奥に手を滑らせていたぶりはじめた。
 激しい水音を立てるその影からは、白濁の雫をいくつも滴らせていた。
「………リ………ク……」
 呆然と呟く名前には、なんとも言えない思いが詰まっていた。
 生きていたことを喜べばいいのか。
 それともなぜこんな行いをするのか。
 どうしてこんな表情をするのか。
 狂ったように笑い声を上げる勝利を確信したリクと、泣きながらも悦びもだえるミズキの姿だけが頭の中で終わりなく再生されていた。

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