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< どんな過去でも > 投稿日:2006/08/10(Thu) 23:20 No.80 
この発見をした直後、少しの間僕は曲を流して
過去に戻る事をためらった。
楽しい時間を振り返り、彩の笑顔が見たい。
その想いから始めた過去への旅だったから
楽しくない時間を見る事になるのではないかと思うと
怖いような気になってきたからだ。

ここまで振り返ってきた想い出だけで、もう十分だ。
綺麗な想い出だけを味わって、ここでお終いにしよう。

そう思おうとした、できない事ではないだろう。
だけど、僕は・・・
この旅の終着は、ここではないと感じたから
これからどんな場面に遭遇するかもしれなくても
もう引き返さず、立ち止まらずに進もうと決心した。

そして、またあの曲を再生するためにゆっくりと
手をコンポに伸ばしていった。
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< 悲しい発見 > 投稿日:2006/03/26(Sun) 23:23 No.28 
そうして僕は、数え切れない程の旅をして
10年前の僕と彩の時間を客観的に垣間見た。
あの時は気が付かなかった彼女の心の動きのようなものも
きっと少しなのだろうが今になって分かるような気にもなった。

10年前の僕は、当然だけど今よりも幼い。
自分の事だけで手一杯な気持ちも正直あったし、
言わなくても、彩は僕の気持ちを分かってくれると
勝手に思い込んでいた。
いや、分かってほしいと望んでいた。

だけど、彼女だってもちろんまだ若く、
その分だけ弱い部分もたくさんあったのだから
何もかも僕に都合よく進むはずもなく、
言葉にしないまま何もかもを分かり合えると言う僕の勘違いが
二人の間に少しずつ、違和感のある見えない壁のようなものを
作っていった事を、初めて知った・・・

あの頃は分からなかった悲しい発見だった。


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< 繰り返される時間 > 投稿日:2005/11/21(Mon) 22:59 No.20 
コンポの再生ボタンを押し、例の曲までは早送りした。
そして、僕の不思議な時間はまた始まった。

元の世界に引き戻されては、また巻き戻して曲を聴き、
彼女のいる世界を覗き見てはまた、帰ってくる。
何度も繰り返しているのに、同じ時間を見る事はなかった。
ただ、見ている時間はその世界の中で長かったり、
ほんの一瞬だったりまちまちだったが。

曲に導かれていくその世界は、いつの時間でも彩の姿があった。
ある時は夜、ある時は明け方。
季節が夏の次が春だったり、時間の順番は前後していて
次にどんな彼女を見られるのか、全く予想できないままに
それでも僕は、飽きることなくこの作業を続けていた。
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< 決心 > 投稿日:2005/10/13(Thu) 23:38 No.19 
ぼんやりと、さっきまで見ていた過去の自分達と
今の自分のあるべき姿を、頭の中でごちゃ混ぜにしながら
これからどうしようかと、まだ悩んでいた。

時間がいくらか経ち、僕は決心が付いた。
こうなったら可能な限り、過去に立ち返ってみてやる、と。
それが何か意味があるのか無いのかは、
全てが終わってからじっくりと考えよう。

やる事が決まったら、急にお腹が空いてきた。
まずは腹ごしらえだ。
冷蔵庫の中をあさって、詰め込むだけ詰め込んで
そして、またコンポの前に座り込んだ。
もうすっかり、そこは僕の定位置のように
しっくりと馴染んだのがおかしかった。

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< 過去と今 > 投稿日:2005/09/06(Tue) 23:00 No.18 
どれくらいの時間が経ったのか・・・
いつの間にか眠ってしまっていたらしく、
気が付くとテープは全ての曲が終わって止まり、
横たえていた体も、ひどく疲弊しているようだった。

そのままの格好で、ぼんやりと考えてみた。
僕は、どうしたいんだろう・・・?
こんな事をして、一体何になる?
既に何もかもが、終わったことじゃないか。

よほど疲れていたらしく、半分眠ったようにぼんやりと、
でも曲と共に蘇ってきた彼女の想い出を、頭の中で反芻した。
想い出は残酷だ、楽しかった事も嬉しかった事も、
どうやったって、もう今じゃない。
それは分かっている、なのに、想い出の世界は美しい。
今の世界が、かすむほどに。

まだ心が、今の世界に帰るのを拒んでいるように
彼女のいた過去ばかりが思い出されて仕方なかった。

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< 壊れていく > 投稿日:2005/07/24(Sun) 23:48 No.17 
彼らのデートを、その後も少しだけ見る事が出来たが、
結局、また僕は今の僕の世界にいつの間にか舞い戻ってきていた。

僕は、何もする気になれないままでいた。
今したい事はただ一つ、彼女を見つめていたい、それだけなのだ。

テープを巻き戻すためにコンポの巻き戻しボタンを押した。
キュルキュルと巻き戻す音を聞きながら、
軽く目を閉じて、僕はただひたすら、
彼女のいる世界の事だけを考えていた。




何度そうやって、巻き戻してはあの世界に行き、
帰ってきてはまた巻き戻して・・・と繰り返したんだろう。
自分でも分からない。
相当な時間が経過している事だけは
窓の外の明るさから推察できたが、
それでも、この繰り返しをやめようとは思わなかった。

僕の中で何かが麻痺、もしくは破壊されてしまったのかもしれない。
でもこの時の僕には、そんな風に自分を客観的に振り返る余裕はまだ無かった。
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< 彼女の笑顔 > 投稿日:2005/06/09(Thu) 22:38 No.16 
彼女は、それでもまだ若い僕をまっすぐ見ようとせず、
俯き加減で目をそらして、彼の話を時折うなずいたり、
首を振ったりしながら聞くだけだった。

彼女の沈んだ顔とは正反対に、若い僕は穏やかな微笑を絶やさず、
彼女に何かを話している。
何故か、その話の内容はこの時は聞き取れなかった。
それでも、どうやら若い僕が必死で弁明しているらしい事だけは
二人の様子から想像できた。

数分もすると、彼女の顔にまた笑みが戻ってきた。
彼女には笑顔がよく似合う。
僕はそう改めて気が付き、いつまでもその笑顔を見つめていた。
ずっと見ていたい、ずっと見ていたかったのに・・・
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< 憤り > 投稿日:2005/05/02(Mon) 23:34 No.15 
カチッと言う巻き戻しボタンの小さな音と共に、
テープの巻き戻しが始まった。
たった1曲分巻き戻すのに掛かる時間など、普段なら気にもしない程度なのに
今はとても長く、もどかしく感じてしまう。

巻き戻しが終わり、例の曲のイントロが流れ始めると、
いつもの様に頭の中に霧が掛かったような、ぼんやりした状態になり
そして、僕は・・・


僕は、僕の希望通りまた、彼女と過ごしたあの時間に舞い戻る事が出来た。
今度は彩が既に目の前にいて、若い僕に何かを話し掛けているところだった。

「ねえ、聞いてる?また人の話をいい加減に聞いてたんでしょ?」
彼女はそう言って、少し怒ったような悲しいような、そんな表情で
黙り込んでしまった。

若い僕と言えば、そんな彼女の気持ちなど分かっているのかいないのか、
これまた押し黙ったまま、二人は歩き続けていた。

おかしな話だけど、僕はこの若い僕に怒りを感じていた。
どうして、もっと彼女の話をちゃんと聞いてあげないんだ、と。

海の見える公園を、二人はただ歩いていた。
数分過ぎた時、若い僕が何かを言って、二人は通りかかったベンチに座り、
やっと向き合って話し始めた。
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< 封じ込めていた想い > 投稿日:2005/04/10(Sun) 23:07 No.14 
すっかり忘れたつもりでいた情景、
だけど、心の奥底にしっかり残っていたその中で、
僕は立ち尽くしていた。
そして・・・・・


気が付くと、僕は現在の僕の部屋に座り込んでいた。
あの曲は既に終わり、次の曲が流れ始めていた。

現実の世界に帰って来た僕が真っ先に思った事、
それは、今すぐにでもまた彼女に会いたいという事だった。

どう言う仕組みで過去に戻っているのか、
ただ過去を振り返っているだけなのかは分からない。
だけど、あれ程リアルに過去を感じられるのなら、
今は理由など分からなくてももう良いと思った。

僕は、仕舞い込んでいた僕の記憶の中の彼女を見てしまった。
それが夢でも幻でも、彼女にもう一度会いたい。
その為に、僕はテープをあの曲の前まで巻き戻そうと
コンポの巻き戻しボタンに手を伸ばした。
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< もう無いはずの風景 > 投稿日:2005/03/17(Thu) 23:07 No.13 
過去の出来事を見ていると、心が痛い。
無くしてしまった物の大切さを、今になって知ってしまったからだ。
知ったからと言って、もうどうにもできはしないのに・・・

そんな僕の気持ちなどお構い無しに、
昔の僕と彼女のほのぼのとしたやり取りは続いていた。
笑顔の二人は、僕を置いて店を出て行った。

二人を追うか、このままこの時を一人で彷徨ってみようか。
少し考えて、今回は一人で街を眺めながら考えてみようと決めて
僕も店を後にした。



街並みはやはり、あの頃のままだった。

今はもう無い店
その後洒落たレンガ風の歩道にされたはずの、砂利道
今なら背の高いビルのせいで、見上げても見えるはずの無い低い位置の星達

そう、僕と彼女が同じ時を過ごした時代にあったあの景色が
確かに溢れていた。
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